大学進学率7割。それゆえに大卒が報われない社会。そこには根深い構造問題がある
2019年04月24日
多彩な表情をもつ韓国社会だが、そのうちの一つが、高い教育熱、そしてその結果としての高い大学進学率だろう。
韓国政府によると、大学進学率は約7割に達している。2010年代に入って以降はおおむねこの水準が続いている。やや乱暴な言い方かもしれないが、韓国はいわば「大卒社会」なのだ。
それぞれの頭文字から「SKY」と称されるソウルの3大学(ソウル大、高麗大、延世大)を一つの頂点に、大学、さらには「一流」とされる大学を卒業することが非常に重視される学歴社会であり、幼いころからの塾通いは日常の風景だ。
実はこの韓国の大学進学率、韓国政府の統計をたどってみると、1980年代まではおおむね3割台だった。その後韓国の発展にともなって上がったものの、1990年代半ばごろでもまだ5割ほどだった。それが、1997年の通貨危機を経て、2000年代以降には7~8割まで上昇している。
雇用の不安定化が進み、将来への不安が高まる中で、狭き門となった「待遇の良い、安定した職場」をめざして多くの若者が熾烈な競争を強いられるようになり、勝ち抜くための必須条件として、大卒の肩書が「標準装備」になっていったのだ。
ただ、韓国はまた同時に、「大卒であることが報われない社会」でもある。
韓国政府によると、韓国の大卒就職率はここ数年、6割台前半~半ばで推移している。正社員の座はさらに狭き門で、ソウル以外の地方の大学などはより厳しくなる。大企業への就職を望みながら果たせず、語学や資格取得などの勉強に励みつつも年を重ねる若者も多いほか、最近は日本など海外企業への就職に活路を見いだそうとする若者が少なくない。
こうした状況から、韓国では売り手市場とされる最近の日本の就職状況への関心が強い。経済の専門家らと話をしていて、こう言われることが多いのだ。
「ところで、どうして日本はあんなに就職が好調なのでしょうか?」
若者の就職難は、韓国にすっかり定着してしまった難しい課題だ。
2017年5月に就任した文在寅大統領も、「イルチャリ(雇用)中心の経済」「イルチャリ政府」を掲げ、2017年10月にはさっそく当面5年にわたる雇用政策全体のロードマップをつくった。そのなかで若年失業の問題についても、採用を増やした中小企業に対する「奨励金」の支給、公共機関に義務づける若者雇用の比率の一時的な引き上げなど、様々な取り組みを打ち出した。
ただ、依然として若者の雇用状況は厳しい状況が続く。
4月10日に韓国統計庁が発表した、今年3月の雇用動向。韓国の失業率は全体では4.3%だが、15~29歳のいわゆる若年層に限ると、2倍以上の10.8%だった。
前年同月(11.6%)よりは下がったとはいえ、依然として高い水準が続いていることには変わらない。そして就職難の実態は、統計よりもはるかに深刻だとされる。就職そのものをあきらめてしまうなどして、求職活動をしていない人も多いからだ。
若者の失業問題を2年や3年で劇的に改善できるような妙手はもとよりない。文在寅政権が打ち出した政策も、もちろん一定の雇用効果はあるだろうが、なかなか根本的な解決にはならない。
なぜだろうか。
韓国の若者の失業問題は、「大卒社会」であるがゆえの根深い構造問題だからだ。
高学歴化は、若者の望む就職先と現実とのミスマッチを拡大させた。毎年、「大卒」の若者が多く輩出されるようになり、当然といえば当然だが、「その努力や肩書に見合う」と考える職を、欲するようになる。支えてきた親も「大学まで出したのだから、しっかりした企業に就職しなさい」となる。
多くが望む就職先といえば、「安定」の象徴として大人気の公務員をいったんおいて考えれば、「大企業の正社員」がまず代表的な存在だ。ただ、そうした職場はそもそも非常に限られている。
2月6日公開の記事『自営業大国・韓国 最低賃金引き上げへの苦しみ』でも触れたが、韓国経済は、成長を引っ張ってきたサムスンに代表される財閥系大企業の存在感が圧倒的。そうした一部の大企業以外には、満足のいく待遇が得られる雇用の受け皿が十分にない、という構図になっている。
韓国政府の資料によると、大企業の正社員の賃金を100とすれば、大企業の非正社員は63、中小企業は正社員でもさらに低く53程度になるとされる。福利厚生などでも劣るケースが多いほか、「世間体」という部分でも敬遠されがちだ。
実際は中小企業といっても多様で、国内外にビジネス展開し、成長性もある中小・中堅企業やベンチャー企業などもあるのだが、若者の根強い大企業志向を大きく変えるまでの存在感にはまだ遠い。本人だけの問題ではなく、親の世代の期待や価値観も大きく影響している。
「娘に『結婚を考えている相手を紹介したい』と言われた韓国の親がまず聞くのは、
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