さらば厚労省 ライフシフトする医系技官
課長ポスト捨てDeNAへ。20年後の自分を考えたら今しかない。
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
政治家は物事変えられるまで時間がかかりすぎる
――厚労省の医系技官というと、退官後は大学医学部の公衆衛生学や医療管理学の教授になる人がいます。また霞が関の官僚は、若いうちに政治家に転身する人もいます。三宅さんはそのような選択肢は考えなかったのですか。
学者の道は考えていました。最終的には保健所長として地域に根ざした仕事をしたかったし、色々な選択肢を考えました。しかし、政治家は考えませんでした。政治家として物事を変えられる立場になるには、一から取り組まざるを得えません。それを考えると、あまりにも時間がかかりすぎます。

東日本大震災の医療・保健支援で、石川県からの支援として宮城県石巻市に入る。厚労省で新型インフルエンザ発生の際に一緒に頑張った仲間とも再会した=2011年4月15日撮影、三宅邦明さん提供
「君のために、真っ白なキャンバスを用意した」に答えたい
――第4次産業革命の話が出ましたが、厚労省はかつて経産省が主導する医療改革とも言える取り組みについては慎重だったという印象を持っていますが、いかがですか。
2004年、厚労省に新設された健康フロンティア戦略推進室に生活習慣病対策を大変革させるために担当として行けと言われました。その時、上司からこんな言葉を掛けられました。
「君のために、真っ白なキャンバスを用意した。自由に絵を描いてくれ」
ゼロから任せられたときには、びっくりしましたが、インターネットで生活習慣病対策の大御所・新しい取り組みをしている人を根こそぎリストアップして、片っ端から話を聞きました。そこで、目を付けたのが、ディジーズマネジメントという米国の取り組みでした。生活習慣病や喘息などの疾患について診療ガイドラインをもとに患者や住民に働きかけを行ない、保健医療のコストをコントロールするとともにサービスの質の向上を実現しようとするものです。
これまで保健師さんたちが自分たちの経験で指導していたものを、データを使ってリスク・背景別に層別化して、こういうグループにはこういう介入をしようというグループごとの仮説を作って介入するのです。ハイリスク群のグループには週1回のペースで訪問しようとか、違うグループには毎日簡単なクイズで学んでもらえるメールを出そうとか、仮説に従って統一的に介入して、その結果を検証し、新たな層別化・介入方法を検討し実施するというPDCAサイクルを回していきます。ぐるぐる回すことですごいスピードでどんどん精度を上げていきました。
これらの考え方が、生活習慣病全般をメタボリックシンドロームというある意味一つの疾患イメージとしてとらえなおし、健康リスクに応じて、保健指導を行う現在の特定健診・保健指導につながりました。
このような取り組みもあり厚労省がデータの重要性に後ろ向きだったとは思いませんが、コンピューターに何でもやらせることや遠隔診療には慎重だったかもしれません。現実と常に向き合っている省庁としては、そう簡単じゃねえ、というところがあったと思います。