2019年04月25日
新元号が「令和」に決まり、天皇皇后両陛下が伊勢神宮へ退位の報告をされる「親謁の儀」が執り行われるなど、改元ムードが盛り上がるにつれて、その経済効果をどう考えれば良いのか聞かれることが増えたので、簡単に整理したい。
まず、改元に伴って必然的に発生するものとして挙げられるのは、企業や金融機関、役所を中心に対応を迫られる、「平成」から「令和」への表記書き換えであろう。アナログの世界ではハンコの買い替え、デジタルではシステム対応となる。株式市場では、既に昨年から「改元銘柄」として、帳票印刷やシステム変更関連企業、少し変わったところではハンコのインターネット通販企業などが注目されていた。
平成への改元の際はどうだったのか。昭和が終わり、平成が始まったのは1989年1月8日からであるが、その直後に印刷需要6千億円(GDPの0.1%程度)という観測が報じられ、ハンコ業界はフル回転、コンピューターソフト会社は休日返上で書き換えに追われ、前年終盤に3万円を超えた日経平均株価は高値更新が続くなど、当初は大いに盛り上がった。しかしながら、ハンコ需要は1週間程度で一巡、印刷業界は天皇崩御への配慮や実際に自粛の動きもあって「特需」を否定、ソフトウエアの対応は速やかに進み、「改元対応」需要は思ったより早く一巡した。また、ゴム印の中には1カ月で10年分売り切った商品もあり、需要の先食いという面もあった。それでも、改元によって追加的な需要が発生し、業種は限られるとはいえ景気を押し上げたことは事実である。
今回は、改元まで1カ月の準備期間があるため、こうした追加需要を平成の時より無理なく消化できる。その意味で、恩恵を受ける業界にとっては良心的な特需になっていると言えるだろう。
そのほか、「平成最後」や「令和初」のセールやイベントが流通やレジャー業界の追い風になるとの見方もある。平成の際には、菓子や酒などの食品のほか、Tシャツ、雑貨、インテリア、今は見ることも少なくなったテレフォンカードなど、「平成」の名前を冠したり、デザインに織り込んだりした「平成グッズ」が数多く売られた。さらには、社名や商標に「平成」を入れるなど、新元号に便乗する動きが広がった。当時の報道を拾うと、平成にあやかった社名の申請は、東京法務局の1月だけで約250件あったそうである。一方で、新年会などは昭和天皇の崩御を受けて自粛する動きも見られたが、葬儀にあたる2月24日の「大喪の礼」を過ぎると改元モード全開となった。なによりもバブル景気の絶頂期であり、理由がつけばお金を使う、そういう時代でもあった。
令和への改元は生前退位につき、喪に服すことはなく基本的に歓迎一色であり、改元ムードの盛り上がりを抑えるような要因は見当たらない。消費者を取り巻く環境を見ても、今年の春闘は6年連続となる2%台の賃上げを実現するなど、令和歓迎ムードを萎縮させることはなさそうである。むしろ、いまだ低迷する消費者のマインドが改元ムードによって改善し、停滞していた個人消費の追い風になるのではないかという期待感すらある。
また、便乗と言えば、改元を待っていたかのように発表された新紙幣発行も、その類のように映る。奇しくも平成の際は、安倍晋三首相の父、安倍晋太郎幹事長(当時)が「デノミ」の検討に触れ、注目を集めた。「デノミ」とは、通貨の呼称単位を変更することで、例えば現行の100円を、新しく発行する「新円」の1円に置き換えることである。これにより、100円で売られていたものの値段は新円で1円となり、為替相場は、1ドル=110円であれば新円では1ドル=1.1円となる。つまり、簡単に言えば、円のケタ数が2ケタ小さくなり、ドルやユーロなどとケタが揃うわけである。
では、何のためにデノミを行うのか。一般論はここでは省略するとして、日本円の場合、最大の目的は、上記の為替相場の例が示すような海外からの見え方であろう。明治初期、円は1ドル=1円でスタートしたが、太平洋戦争開戦時には4円台まで下落、戦後の超インフレにより360円まで円安が進んだ。戦争の前後で円の価値は実に100分の1も切り下がったことになる。つまり、ドルやユーロと2ケタも違う現在の円相場は、敗戦を象徴するものだとして、その修正に戦後の総決算という意味を見出す向きが当時は一定数存在したわけである。加えて、切り替えに伴う紙幣の刷新やシステム対応などの需要を経済的なメリットとみる向きも少なからずあった。ただ、それをコストと考えればデノミのデメリットともなる。そのほか、補助単位「銭」の復活、便乗値上げなどもデメリットとして挙げられるが、その後、便乗値上げはデフレ脱却につながるという見方も登場、議論は迷走し、現在は下火になっている。
それはさておき、今回の新紙幣発行の経済効果、需要創出効果を1兆円以上とする試算もあり、そうだとすれば景気浮揚の有力な材料として期待される。具体的には、自動販売機やATM、紙幣識別機などの機器を新紙幣に対応するためのコストが中心となる。ただ、これらの大部分を負担することになる国内金融機関にとって、
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