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アベノミクス「失敗の本質」

幻想をふりまくアベノミクスには戦前・戦中に似た危うさがある

原真人 朝日新聞 編集委員

首相の「成功の呪文」

 それでも世論に成功イメージを広げたのは、安倍晋三首相が繰り返し呪文のように「成功」と唱え続けてきたが大きい。たとえデータが怪しくても、根拠らしき説明を添えて「成功」と繰り返し言い続ける。国会審議や記者会見など、首相のメディア露出度、発信力はきわめて高いから、そこで「アベノミクスによる株高」「アベノミクスによる雇用増」といったフレーズが繰り返されると、知らず知らずのうちに多くの国民にそう刷り込まれてしまう。

 安倍首相による「成功の呪文」の例をいくつかあげよう。

◆「全国七つの県で有効求人倍率が過去最高になった。青森県、秋田県、高知県、徳島県、福岡県、熊本県、そして沖縄県だ。高度経済成長期、あるいはバブル期よりも、雇用条件はよくなった」(2015年11月29日、自民党の記念式典で)
◆「アベノミクスは、確実に結果を生み出しています。しかし、今、世界経済がリスクに直面しています。消費税率引き上げを2年半延期します。総合的かつ大胆な経済対策を講じ、アベノミクスのエンジンを最大限にふかすことで、デフレからの脱出速度を更に上げていきます」(2016年7月の参院選での自民党公約で)
◆「アベノミクスによって極めて短期間で、デフレではない状況を作り出した。私たちは結果を出している。果実は着実に生まれている」(2017年1月24日、参院代表質問で)
◆「この5年間、アベノミクス『改革の矢』を放ち続け、雇用は185万人増加しました。この春、大学を卒業した皆さんの就職率は過去最高です。この2年間で正規雇用は79万人増え、正社員の有効求人倍率は、調査開始以来、初めて、1倍を超えました」(2017年11月17日、所信表明演説で)

拡大地元・山口県でアベノミクスの効果を訴える安倍首相=2016年1月10日
 安倍首相は、第2次政権の発足当初は円安・株高効果が期待以上に評価されたことから、これを「成果」として誇ることが多かった。

 やがて、株高・土地高は持てる者には恩恵があるが、全体に広がっていないという「トリクルダウン」(富める者の富が次第に貧しい者にも滴り落ちてくること)批判が出てくると、今度は雇用環境の好転を「アベノミクスの果実」として宣伝するようになった。

 有効求人倍率の上昇、完全失業率の低下はたしかに進んだ。ただ、その裏で非正規雇用の割合がどんどん増えている、という問題に首相は言及しない。なにより、この雇用環境の好転の主因はアベノミクスではなく、人口動態である。

 日本の生産年齢(15~64歳)人口は1995年から減少に転じている。2010年に8103万人だった生産年齢人口は、2017年に7596万人になった。7年間で507万人も減少した。この減少分を埋めるように、女性と高齢者の就労が急速に増えた。それこそが雇用増加の主因だ。

 こうした「事実」を説明することなしに、安倍首相はひたすら「アベノミクスの成果」と言い続ける。政権の功績だと演出できる都合のいいデータだけを選び出し、「成功した」と連呼する。いつのまにか人々に「アベノミクスは成功した」というイメージが植え付けられていく。

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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

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