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自動運転車の安全基準づくりで日米3社が連携

実用化に向けて大きな一歩

片山修 経済ジャーナリスト、経営評論家

 トヨタ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーターは4月3日、自動運転車の安全基準づくりで連携することを発表した。3社は、SAE(米国自動車技術者協会)と共同で、「自動運転車安全コンソーシアム(AVSC)」を設立し、自動運転車の試験走行の基準づくり、走行データの共有、他の道路利用者との協調などに共同で取り組む計画だ。SAEは、自動車に関わる技術標準を担う米国の非営利団体である。

 これは、いったい何を意味するのか。

 「インフラや社会システムなど、自動運転システムや自動車の基盤となる分野における産業界の協力は、私たちにとって重要なステップです。自動車エコシステムをつくるうえで、重要な役割を果たすさまざまな利害関係者と協力するために、このコンソーシアムを設立しました」

 トヨタの自動運転技術の先行開発などを手掛けるTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)EVPのケリー・カイ氏は、デトロイトで開かれたSAE主催の「WCX(ワールド・コングレス・エクスペリエンス)」の会場で述べた。

 日米の自動車メーカーが、完全自動運転の実用化に向けて足並みを揃えた。

 AVSC設立の背景には、コネクティビティ(接続性)、オートノマス(自動運転)、シェアード(共有)、エレクトリック(電動化)の頭文字をとった「CASE」をめぐる、アップルやグーグルなどのIT企業の追い上げがある。

 「ライバルも競争のルールも変わり、まさに未知の世界での生死を賭けた闘いが始まっている」

 自動車産業は、100年に1度の大変革期にあるとして、トヨタ社長の豊田章男氏は、2018年3月期の決算会見の席で、そのように語った。

 自動車メーカーによる安全基準づくりに向けた協業は、自動運転を含めた新しい事業領域でイニシアティブをとるための動きといっていいだろう。

人に頼らない自律運転を目指すIT企業

米ウェイモの自動運転車=2019年1月、ラスベガス

 自動車メーカーが、基本的に人が運転することを前提にクルマを開発しているのに対して、IT企業はあくまでもAI(人工知能)の精度を高め、一切、人に頼らない完全な自律運転を目指している。

 先頭を走っているのは、09年に自動運転車の開発をスタートしたグーグルだ。その兄弟会社ウェイモは、2012年にネバダ州で米国初の自動運転車専用のライセンスを取得して以降、同州やカリフォルニア州などで公道実験を実施している。公道での自律運転車の走行距離は、世界最長の1000万マイル(1610万キロ)を達成した。

 さらに、ウェイモは18年12月、アリゾナ州フェニックスで自動運転を使った配車サービス「Waymo One」を商用化したと発表した。ウェイモが開発した専用アプリをダウンロードし、乗車位置と目的地を指定。迎えにきた自動運転車に乗車し、車内のディスプレー上のスタートを示すアイコンに触れると、クルマが動き始める仕組みだ。

 ただし、このサービスは、条件つきだ。万が一、クルマが予期せぬ動作をした場合に備えて、人間が運転席に座るという条件がついている。信頼性の高いシステムの構築は、同社の当初の予想よりはるかにむずかしく、自動運転が人の監視なく行われる段階には達していないことを、図らずも露呈してしまったと見ていい。

 自動車メーカーが危機感を持つのは、AIや関連インフラが、自動車の性能や製造よりも重要になれば、自動車メーカーの地位が相対的に低下することだ。かりにも、そうなれば、自動車メーカーがIT企業の下請けになってしまうかもしれないと、自動車メーカーは恐れているのだ。

 GMの自動運転子会社のGMクルーズは、完全自動運転の開発を強化し、ウェイモの1年遅れとなる19年内の自動運転の実用化を目指す方針だ。

自動車メーカーとIT企業には協調関係も

 もっとも、自動車メーカーとIT企業を対立軸のみで見るのは、単純すぎる。確かに、両者は激烈な戦いを繰り広げているが、必ずしも敵対関係にあるわけではない。むしろ、両者は協調関係を築きながら、それぞれが得意とする事業領域で力を発揮していると見た方がいいだろう。

 例えば、GMクルーズ、GM、ホンダは、自動運転技術で協業し、ライドシェア専用車の共同開発を行うとともに、ライドシェアサービスのグローバル展開を視野に入れている。

 トヨタは、ソフトバンクグループと提携して、自動運転車を使ったモビリティサービスの共同展開を計画している。その一方で、

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