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90%が政府寄りメディアのハンガリー

「典型的なポピュリズムの国」、日本のメディアの現状は?

小林恭子 在英ジャーナリスト

「典型的なポピュリズムの国」

拡大HVGのウェブサイト

 言論組織「プロジェクト・シンジケート」のマネジング・エディターで司会役のジョナサン・スタイン氏が、セッションの口火を切った。「欧米でポピュリストの波が広がっている。英国のEUからの離脱の決定やトランプ米大統領の誕生、ハンガリーの強権政治が典型だ」

 「オルバン首相は、ハンガリー国民の声を代弁していると言う。そうすることで、国を2つに分けている。支持者は『愛国者』で、支持しない人は『裏切り者』。徹底的な中央集権化を進め、中央銀行や憲法裁判所を攻撃している」。

 オルバン氏は1998年から2002年まで、首相に就任。2002年の総選挙では社会党に敗れたが、2010年に返り咲き、2014年、2018年の総選挙で勝利。現在は第4次オルバン政権を率いる。10年の政権奪回後すぐに新憲法の制定を始め、選挙制度改革、憲法裁判所の権限縮小、報道に対する監督強化などを実施していった。

 最初のパネリストは、3年前まで、左派系最大手の新聞「ネープサバッチャーグ」の元副編集長で、今は調査報道のサイト「HVG」のマートン・ゲーゲリー編集長であった。

 同氏がハンガリー・メディアの大きな再編の一例として挙げたのが、ニュースサイト大手「オリゴ」の所有者交代事件(2013年)だった。前後して、外国資本や新興財閥が次々とメディアを買収する、閉鎖するなどの現象が起きていた。

 2016年10月、ネープサバッチャーグ紙が突然廃刊された時、その理由は政権の強硬な移民政策を批判したため、と言われている。

 ネープサバッチャーグが存在していた当時の主要紙は5つ。「3紙は政権に批判的で、2紙は政権寄りだった。今は3紙のみ。2紙は政権寄りで、1紙は批判的だが、部分的には政権に妥協している」。

 政権批判を行うメディアが姿を消すことで、「メディアの生態圏が壊れた」とゲーゲリー氏は指摘する。「政権に批判的なメディアが存在し、調査報道が行われるからこそ、権力にプレッシャーを与えることができるが、ハンガリーのようにメディアの大部分が政権を支持していれば、国民は何がよくて何が悪いかを見極めることができなくなる」。

 批判をいとわない新聞の規模がある程度大きく、十分な数の人々にリーチできる状態であることも重要だ。そうでないと「権力にプレッシャーを与えることができなくなる」。

 「私たちがもし西洋のメディアほどの広告収入を持って、同じようなリーチ力を持っていたならば、おそらく20%人員を増やせると思う。人が20%少ないということは、ジャーナリストは雑務に時間を取られて、外に出て取材をする時間が少なくなることを意味する。市民の声を聞く機会が少なくなる。私たちは実際何が起きているかの感触を失ってしまうし、深みがある記事を連続して書くことができなくなる」。


筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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