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英政府が「有害情報」流す企業に罰金科す提案  

「不偏不党」求められるBBCの立ち位置は市民の側で「反権力」

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

「自主規制の時代は終わった」

英政府が公開した白書「Online Harms White Paper」拡大英政府が公開した白書「Online Harms White Paper」

――白書「Online Harms White Paper」は、ネットを利用する人々がオンライン上で日々「重大な被害を受けている」事実を「無視できなくなった」と指摘しました。「英国の安全保障や子どもたちの安全を物理的に脅かす違法なコンテンツや行動」がオンラインのプラットフォームを通して拡散されることは到底受け入れがたく、民主主義の価値などを蝕(むしば)むものとして利用されかねないと警鐘を鳴らしてもいます。また、インターネット企業やその経営陣に罰金を科したり、違法コンテンツを掲載したサイトを閉鎖するようネットプロバイダーに命じたりする権限を持った強力な独立規制機関の設置を提案していますね。

 「白書の『Executive summary』では、『オンラインをめぐって英国は世界で最も安全な場所であるとともに、デジタルビジネスを起業して成長させる場所としても最適であってほしいと英政府は願っている』とし、だからこそ『デジタル経済はオンライン上の市民の安全を改善するため、新たな取り締まりのフレームワークを早急に必要としている』との考えを打ち出しています」

 「ネット上の『自由、オープン性』は維持しつつという点は英政府も押さえていますが、それにしてもかなり踏み込んだ内容です。対策の目玉として提案したのが、ソーシャルメディアやネット企業に倫理規定を課す独立規制組織の設置で、その運営費については規制対象となる企業側が負担するとしています。英国ではこれまで、国境を越えて情報が行き来するネットの世界を一元的に規制・監督する組織はなく、被害への対処はインターネット企業に委ねられてきました。でも、ジェレミー・ライトDCMS相は4月8日のBBCの番組の中で、こうした企業による『自主規制の時代は終わった』と明確に述べました」

――白書が指摘する「有害投稿」を始めとする有害情報や有害コンテンツの具体的な中身はどんなものでしょうか。

 「白書が挙げているのは、国家の安全を脅かすテロについての情報や虚偽情報を拡散させること、子どもたちに対する性的虐待、リベンジポルノ(元配偶者や元交際相手らが、復讐(ふくしゅう)目的で相手の裸の画像などを投稿すること)、ヘイトクライム(憎悪感情に基づく犯罪)などです。また必ずしも法的に違法とまではいかなくとも、様々なハラスメント(いやがらせ)やいじめにつながる情報なども英政府としては問題視していることがわかります」

好意的な評価と疑問の声

英国のEU離脱をめぐる2度目の国民投票を求めてデモ行進する人たち=3月、ロンドン拡大英国のEU離脱をめぐる2度目の国民投票を求めてデモ行進する人たち=3月、ロンドン

――これまでも「フェイクニュース対策が甘い」と批判されてきたフェイスブック社やツイッター社などのプラットフォーム企業は、この白書の提案内容に対しておおむね「好意的な声明」を出して評価しているようですが。

 「そうですね、フェイスブック社は『新たな規制が必要』との考えを示しています。また、ツイッター社は『オープン、自由というネットの特徴を維持しながら利用者を安全にする適切なバランスが保てる』よう、政府と『ともに作業を進めたい』などとしています。これに対し、英ネット業界の組織『テックUK』は白書を『大きな前進』としながらも、経営陣個人の責任を問う『高圧的な』手法に疑問を投げかけています」

 「さらに、シンクタンク『アダム・インスティテュート』のマシュー・レッシュ氏は『言論と報道の自由への攻撃だ』と非難しています。とはいえ、ネット界への規制導入はすでに『タブー』ではなくなっていることを理解する必要があります。フェイスブック社のザッカーバーグCEOが3月末、米ワシントン・ポスト紙への寄稿の中で、悪質な投稿に対し『政府や規制当局の活発な役割が必要だ』と書いていたのが象徴的でした」

――ところで昨年10月、英政府は、グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンの米4社を指す「GAFA」に対する「デジタル・サービス税」を導入する方針を打ち出しましたが、その後何らかの動きはありますか。

 「ハモンド財務相が来年4月以降、大手テクノロジー企業を対象とするデジタル課税の導入を発表しましたが、英国では大手の米国企業による法人税の支払いが少なすぎることへの不満が高まっていたということが背景にあると思います。財務相は、世界の売上高が年間5億ポンド(約732億円)以上の事業部門に課税するとしていたのですが、その後、ブレグジットの先行きや英政権交代の可能性も浮上する中、その実現可能性については必ずしも確定しているわけではないと理解しています」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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