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産業界の重鎮が「石炭」にこだわるわけ

温暖化対策、「枝葉」ではなく「根幹」の戦略を

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

産業界の重鎮が「石炭」にこだわる理由

拡大Rasta777/shutterstock.com
 長期戦略案をつくるにあたって、石炭火力発電をめぐって対立があったという。案をつくる有識者会議の座長、北岡伸一氏(政治学者、国際協力機構理事長)が示した座長案は「長期的に全廃に向かっていく姿勢を明示すべきだ」「日本のレピュテーション(評判)リスク」「今後、原則として、公的資金の投入、公的支援は行わない」などと明記していた。

 これに対し、委員の中西宏明・経団連会長(日立製作所会長)が「世界で石炭火力が引き続き需要される。レピュテーションリスクがあると断言すべきでない」と反論。進藤孝生・日本製鉄会長、内山田竹志・トヨタ自動車会長も同調した。

 その結果、石炭火力については「依存度を可能な限り引き下げる」という表現に弱められたという。

 発電のために主に使われる化石燃料は、石炭、石油、天然ガスがあるが、同じ熱量を得るために排出される二酸化炭素の量は「石炭:石油:天然ガス=10:7.5:5.5」という割合だとされている。一方、石炭は相対的に安価というメリットがある。

 『「再生エネ批判」は印象操作だ!』で安田陽・京都大学特任教授が話していた「便益」と「隠れたコスト」を考えると、石炭火力発電は、いまの世代にとっては電力を安価に手に入れられるというメリットが大きいが、温暖化を大きく促すために「隠れたコスト」が高く、将来世代の便益を考えれば、できるだけ早く再生可能エネルギーなどにシフトしていくべきだろう。

 イギリスやカナダは石炭火力の全廃を打ち出した国もあり、石炭火力事業への融資を見合わせる世界の投資機関も増えている。そうしたなかで依存し続けるのは格好悪い、すなわち「レピュテーションリスク」になるのは確かだろう。

 そのレピュテーションリスクがどの程度のものなのか。産業界の重鎮たちには「全廃」を明記することに、別のリスクを見たのではないか。

 石炭、石油、天然ガスの国際取引での価格形成は、互いに影響し合う。同じ石炭でも産地によって性質が違うほか、長期取引することもあれば、スポット取引もある。

 いまは三種の燃料を買えるので、例えば石油の取引で「もっと値引きしていただけなければ、今回は石油はやめて、石炭を買います」と売り主に迫り、譲歩を引き出す交渉ができる。

 ところが、政府が石炭の全廃を決めると、今度は売り主から「この価格で決めておいた方がいいんじゃないの? おたくの国では石炭がもう使えないんだろ?」と足元を見られる可能性が出てくる。安い石炭を使えなくなるだけでなく、それにより石油と天然ガスの価格が引き上がる可能性がある。

 国内エネルギーの約9割をこれら三種の燃料に頼っているいま、当面は燃料の価格上昇によるリスクは大きい。

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筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集長代理

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

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