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ジャパンディスプレイの敗北 経産省介入派の挫折

仮想敵の台湾、中国勢への身売り。利益を得たのは誰なのか

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

拡大記者会見に臨むジャパンディスプレイ(JDI)の月崎義幸社長=2019年4月12日、東京都港区
 国策液晶会社のジャパンディスプレイ(JDI)は5期連続の赤字に陥り、事業維持に必要な資金繰りにも事欠き、債務超過寸前だ。台湾・中国勢が作る投資コンソーシアムの傘下に入る交渉をしているが、足元を見られて交渉は難航している。台湾・中国勢に対抗して日の丸メーカーを延命させようとした経済産業省の一群の高級官僚たちの企ては、大失敗に終わりそうである。

生みの親は経産省の西山局長

 JDIは2012年、経産省傘下の官製ファンドである産業革新機構が主導して設立された。

 革新機構の生みの親は、経産省で現在、商務情報政策局長を務める西山圭太氏。西山氏は小泉政権時代、不良債権処理に大きな役割を果たした日本初の官製ファンド、産業再生機構(現在は解散。活動期間は2003~07年)の設立に関与した官僚である。

 西山氏は経産省産業構造課長時代の2008年、再生機構をモデルにして同省主導の官製ベンチャーキャピタル「イノベーション創造機構」の創設を立案した。大企業の眠れる技術や特許に官の資金をつけることによって企業化を促すというアイデアだったが、ちょうど立案途中にリーマン・ショックが襲い、経営危機に陥った大企業を救済するという使命が後付けで加わった。

 西山氏は小ぶりな官製ベンチャーキャピタルを狙っていたのだが、身に余る資金を持たされた巨大な官製ファンドに作り替えられたのが、革新機構の、いわば不幸の始まりだったかもしれない。

 担当官として革新機構を立案した西山氏は、テレビのパネルに使われる大型液晶は価格競争に巻き込まれやすい汎用品ととらえ、韓国のサムスン電子などと比べて競争力が乏しいと考えていた。

 しかし、スマホやカーナビに使われる中小型液晶については日本メーカーがまだ強い競争力を有しているという認識だった。経産省と革新機構は2010年暮れごろには中小型液晶を生産していた日立製作所、東芝、ソニーの3社などに統合を持ち掛け、この3社が経営統合する形でJDIが2012年に誕生することになった。

 この経営統合は、メーカーの意思で互いに統合に歩み寄ったというよりも、官主導の上からの再編だった点は留意しておくべきであろう。

 当時の東芝の液晶部門の担当幹部の久保誠氏(後に副社長)は、経産省から「早く統合を考えた方が良いですよ」と働きかけがあったことを打ち明ける。

 東芝の液晶部門は2010年3月期まで2年連続で400億円を超える赤字を計上し、東芝全体の「お荷物」だった。その再建役を託されて久保氏が担当幹部に就くと、2011年3月期には100億円規模の黒字に転換する業績好転を成し遂げた。

 だが、再建役に送りこんだはずの東芝の佐々木則夫社長は「よくやってくれたけれど、俺の期待とは違う」と言って、久保氏を在任わずか1年で異動させた。

 この当時、久保氏のもとには、経産省の担当課長だった吉本豊氏が「たとえ、今が黒字だったからといって、このままでは何年もつかわかりませんよ。統合してください」と盛んに経営統合をもちかけてきた。

 東芝と革新機構は2009年、売りに出て国際入札にかけられていた仏アレバの送変電・配電機器部門の買収に共同で応札したり(結局は落札できなかった)、2011年にはスイスのスマートメーターメーカーのランディスギアを共同で買収したりするなど蜜月状態にあった。久保氏によれば、当時の東芝の経営中枢には「ランディスギアを共同で買収した見返りとして液晶部門を革新機構に献上した」と、いぶかる人がいたという。

 かくして、経産省の肝いりでJDIが誕生する運びになったが、そこに立ちふさがったのが実は中国だった。

拡大JDIが開発した液晶パネル=2017年1月25日、東京都港区

筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。88年、朝日新聞社入社。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』、『東芝の悲劇』がある。近著に『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』。取材班の一員でかかわったものに『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』などがある。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。レコ漁りと音楽酒場探訪が趣味。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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