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自動運転、過疎地の切り札は「ゴルフカート」

電磁誘導線に沿って時速12kmで走る。自動運転サービスの実用化が見えてきた

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

ハイテク車よりゴルフカート

 地方は高齢化と少子化で過疎化が進んでいる。路線バスやタクシーは運転手のなり手がいない。そんな地域に暮らす高齢者の「足」をどう守っていくか。その方向性がようやく見えてきた。

 ハイテクの自動運転車ではなく、従来からあるゴルフカートの転用である。国交省は全国13か所で自動運転サービスの実験を進めており、2020年ごろから一部実用化に入る見通しだ。

秋田県上小阿仁村の自動運転サービス実証実験コース=国交省HPより

 実験か所の一つ、秋田県上小阿仁(かみこあに)村(人口約2300人)では、今冬の36日間、ヤマハ発動機製の7人乗りゴルフカートが、3つの集落を結ぶ全長4キロの道を走った。道の駅「かみこあに」を拠点に、住民を役場・郵便局、高齢者生活福祉センター、診療所へ送迎するほか、農家が生産する野菜やコメを道の駅に運び、住民には注文の商品を配送した。

実験に使われた7人乗りカート=ヤマハ発動機のHPより

 このカートはゴルフ場でお客がコースを移動するときに乗る電動車である。時速12kmで、道路に埋設された電磁誘導線に沿って自動で走る。カートはGPS機能や障害物検知センサー、自動ブレーキを備え、レベル2(下の表)に相当する。

 実験コースのうち「自動運転車両優先空間」とある部分では、レベル4で走行する。現在は運転席に地元のボランティアが座り、ハンドル操作はせずに運行を監視。緊急時のみ運転操作に介入する。

 利用したい人は、前日午後5時までに電話かスマホのアプリで、道の駅にある管理センターに、乗りたい場所や人数の予約を入れる。管理センターにはオペレーターがいて、乗車時刻を連絡してくれる。オペレーターは常時、カートの位置情報や車内の監視カメラ映像を見守っている。利用者は少額の運賃や配送料を払う。

課題は持続するビジネスモデルの確立

 上小阿仁村は雪が多いが、実験では25cmぐらいの降雪でも、カートは電磁誘導線から磁力の信号を読み取り、円滑に自動走行した。村は「実用化して高齢者が外出する機会が増えれば、健康になって村が活性化する」と期待をかける。

 ゴルフカートは数十年前から実用化されている「古い技術」である。国交省の実験では、ゴルフカートのほか、同じく電磁誘導で走るマイクロバスの実証実験(北海道大樹町)も行われた。

 走る道に電磁誘導線を埋めれば、自然条件が厳しい地域でも有用であることが実証され、今後、全国の過疎地や中山間地に広く展開できる可能性が出てきた。

 むろん将来に向けた検討課題は多い。もっとも重要なのは持続するビジネスモデルの確立だ。需要予測、運行体制、自治体の補助金、運賃や運送料金の設定、住民への周知などが課題である。

物流業界が期待するトラック隊列走行

 二番目に実用化が見込まれている自動運転の形態は、高速道路での貨物トラックの隊列走行だ。

 先頭車両だけドライバーが運転し、後続の3~4台の無人トラックは無線で連結してそれぞれ10m程度の間隔を保って追走する。道路の白線を検知して車線を維持する。

トラック隊列走行実験のイメージ図=国交省HPより

 物流業界は昨今の物品取引の急増で、人手不足や長時間労働に悩まされている。今後ますます深刻になるが、隊列走行が実現すれば、一人で一度に大量の荷物を運ぶことができるので期待が大きい。

 ただ、相手がトラックなので安全性の確保が最大の課題だ。国交省は今冬、新東名高速での実証実験を実施し、2022年ごろには商業化したいという。

 政府の自動走行ビジネス検討会の座長を務めている東京大学大学院の鎌田実教授は、「過疎地の自動運転サービスやトラックの隊列走行は、走る路線が決まっているので、ある程度のお金をかければ今すぐにでも実現できる」という。

「自律」か「インフラ協調」か

 では、自動車メーカーが取り組んでいる一般向けの自動運転車は、いつごろ実現するのだろうか。

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