稲田清英(いなだ・きよひで) 朝日新聞オピニオン編集部次長
1972年生まれ。1997年に朝日新聞社に入り、東京本社や西部本社(福岡)の経済部を経て、2006年にソウルに留学して韓国語を学んだ。2008~11年にソウル支局員。東南アジアや中国、欧州などでも出張取材。2018年7月から現職。共著に「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
軍事独裁政権を終わらせた民主化宣言から30年余。「経済の民主化」はなお課題だ
韓国の公正取引委員会は毎年、一定の基準をもとに、主な企業グループ(財閥)の資産状況などをまとめている。
5月15日に発表された最新の資料によると、資産総額でみた圧倒的1位は今年も「韓国の代表ブランド」たるサムスンだった。資産額は414.5兆ウォン(約40兆円)で、2位の現代自動車のほぼ2倍に達している。ほかに、SK、LG、ロッテ、ハンファ、GS、現代重工業、新世界、斗山、韓進、CJ、などが上位に入る。サムスンやLG、ロッテなどは日本でも比較的、なじみがある名前だろう。
どの財閥もそれぞれ、中核となる事業分野を持つ。サムスンやLGなら電機・IT、現代自動車なら文字どおり、自動車、といった具合だ。とともに、ほかにも手広くいろいろな分野の事業を手がける系列会社があり、全体で大きな企業グループを形成している。
サムスンは中核企業のサムスン電子が「ギャラクシー」ブランドのスマートフォンや半導体メモリーで世界のトップメーカーだ。だが、サムスン=サムスン電子、ではない。グループの事業分野は保険、造船、建設、レジャーなど多岐にわたる。
ロッテも、日本ではお菓子メーカーのイメージが強いが、韓国では建設や百貨店、ホテルなどの事業も幅広く展開する大手財閥だ。ソウル中心部の繁華街・明洞にあるロッテ百貨店とロッテホテルは、日本人観光客にもすっかり見慣れた風景だろう。
財閥は、「漢江の奇跡」とも称された韓国の経済成長の過程で、国と密接な関係を保ち、政治と癒着もしながら事業を広げ、成長してきた。
銀行からの借り入れなどで競って事業を拡大した財閥は、1997年の通貨危機を経て事業分野の集約などある程度再編が進んだ。ただ、消滅した財閥もある一方、逆に生き残った財閥は国内での圧倒的な地位と収益を基盤に、海外でも積極的に投資し、さらに規模を拡大して収益力を高めていった。
韓国公取委によると、今年の公開対象となった59の財閥の中でも、サムスンなど上位5財閥が資産額、売上高の5割あまり、純利益では7割を占めている。財閥の中でも格差の拡大が進み、上位財閥と下位財閥との「両極化現象が深まっている」(公取委)のだ。