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アマゾン「ローカル犯罪情報サービス」は是か非か

小林啓倫 経営コンサルタント

疑心暗鬼を招くアプリ

 ノースイースタン大学の犯罪学の研究者らが調査した結果によると、全国的な犯罪傾向に対する認識について、ローカルニュースが人々に与える影響は、全国版のニュースよりも強かったそうである。またテレビのニュースを視聴している人々は、より厳しい犯罪対策を支持する傾向が強いそうだ。

 日本でも、科学警察研究所の研究者らが「犯罪情報が犯罪不安・リスク認知に及ぼす影響」という研究を行っており、その中では「特定の他者と地域の犯罪について話をする機会や学校への送迎機会が多いほど、社会の治安悪化認知と犯罪被害リスク認知が高まる」という結果が出ている。これはある意味当然で、自分の周囲で犯罪が起きていることを教えられれば、「治安が悪化しているのではないか、自分も被害者になるのではないか」という不安を抱くのも無理はないだろう。

 ただ、その不安が過剰なものになり、異常な警戒心につながってしまったとしたらどうだろうか。実際に前述のアプリ「Neighbors」に寄せられている評価コメントを読むと、本当は犯罪者ではなく、単に見知らぬ人というだけで誰かの行動を監視・共有してしまうことへの批判が寄せられている。Ringはそうした過剰反応を削除する対応を行っているようだが、それに対して逆に「なぜ私の投稿を削除するのか」という怒りのコメントを寄せている人もいる。本当に犯罪が起きてみなければ、不審者情報がどこまで正当なものだったかは判別しようがなく、このアプリは本質的に疑心暗鬼を招くものと言えるだろう。

 また先ほどの研究結果のように、厳罰化を望む声を高める効果もあるのだとすれば、本当であれば更生して社会復帰できる人のチャンスまで奪いかねない。繰り返すが、犯罪に対する警戒は望ましいものであることは否定しない。しかしその一方で、それがもたらすマイナス面も意識して、微妙なバランスを取る努力を続けなければならないのである。

 そうした状況の中でアマゾンが、ワイドショー的に犯罪ニュースを伝えるサービスの担当者を募集している可能性があるというのは、注目すべき動きではないだろうか。ITサービス大手が、アプリを通じたローカル犯罪情報提供に力を入れたとき、人々の意識にどのような変化が生まれるのか。あるいはこの種のアプリが、批判を受け規制されていくようになるのか。いずれにしても、高齢者ドライバーをめぐり議論を交わしている私たちにとっても、参考になる事例となるに違いない。

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筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(トーマス・H・ダベンポート著、日経BP)など多数。また国内外にて、最先端技術の動向およびビジネス活用に関するセミナーを手がけている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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