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米中摩擦の出口は見えるのか

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

ホワイトハウスで行われたトランプ米大統領(左奥)と中国の劉鶴副首相との会談=2月22日、ワシントン、ランハム裕子撮影

トランプ・ショック再び

 米国と中国の通商問題は、年初から閣僚級の協議を重ね、5月初めには合意に向けて議論が95%進んだとも報じられていた。しかしながら、5月5日に発せられたトランプ大統領のツイッターが、協議の進捗とともに高まりつつあった世界経済の回復期待に冷や水を浴びせた。ツイッターの内容は、米国が昨年9月、中国からの輸入品2,000億ドル相当に課した追加関税10%(いわゆる「第3弾」)を5月10日から25%に引き上げ、さらに残りの輸入約3,000億ドルにも最大25%の追加関税を検討する、というものである。

 米国側の主張によると、一転して態度を硬化させた理由として、中国がデジタル分野や技術移転の強要に関する法制化、国有企業への補助金について、いったん合意した内容を白紙に戻して再交渉を求めたことが挙げられている。その真偽はともかく、米国の態度急変に中国が十分に対応する時間はなく、結果として5月9~10日にワシントンで行われた閣僚級の協議は不調に終わった。

 そして、トランプ大統領の宣言通り、10日に第3弾分の関税が引き上げられ、13日には第4弾に向けた準備が開始されている。また、中国も対抗措置として、米国からの輸入品600億ドル相当に課した5~10%の追加関税を6月1日から最大で25%まで引き上げる措置を決定した。要するに、米中関税引き上げ合戦の停止によって世界経済が回復に向かうというシナリオの実現は遠のき、むしろ貿易摩擦が激化する可能性が高まったわけである。

トランプ強気の背景

 もし、トランプ大統領が言うように、中国が本当に約束を違えたのだとしても、ここまで強硬な姿勢に転じた背景には、これまでの関税引き上げにもかかわらず堅調さを維持する米国経済の強さがあることは間違いない。

 第1弾から第3弾までの関税引き上げによって、米国では中国向けの輸出が昨年10月に前年比で3割以上落ち込んだが、その後は最も影響の大きい大豆の輸入を中国が再開したこともあり、今年3月には落ち込み幅が半減している。米国において中国向け輸出のシェアは1割に満たないため、その影響は結局、輸出全体を1~2%押し下げる程度に過ぎなかったわけである。また、輸出よりも悪影響が懸念されていた中国からの輸入品の価格上昇についても、第3弾の追加関税10%は人民元の1割程度の下落で概ね吸収できることもあり、その影響は今のところ限定的である。

 一方で、中国では、米国向け輸出の落ち込みが、3月に前年比2割近くへ拡大している。関税引き上げ前の駆け込み輸出の反動に加え、米国向けの主力である電気機器や情報通信機器、パソコンを中心に台湾への生産移転が進んでいるためである。中国の輸出に占める米国向け輸出のシェアは約2割につき、輸出は全体で米国の2倍以上となる4%程度押し下げされ、さらに製造業の設備投資が急減速していることも考慮すると、米国を大きく上回るダメージを受けているとみてよいだろう。トランプが強気になるのも無理ない状況である。

今後は米国にも無視できないダメージ

 ただ、米国にとっても今回は第3弾分の追加関税を10%から25%へ引き上げたため、人民元の下落では吸収しきれない。そのため、物価への影響は避けられないだろう。しかも、第3弾の規模は2,000億ドルと大きい。その中には消費財が2割以上含まれており、輸入元を中国から他国へ簡単にはシフトできず、値上げを余儀なくされるものもある。既に関税10%の段階で家具などの物価が上昇しているが、25%となれば、値上がりするものは当然増えるだろう。

 さらに、第4弾は残り全ての輸入品が対象となり、消費財の割合は4割にも達する。その中には、スマートフォンやパソコンなど、他国では価格の安さでも生産量の大きさという面でも簡単に代替できないものが少なくない。もちろん、他国への生産シフトのほか、他国企業がその需要を取り込もうとする動きは出るだろうが、生産体制を整えるには相当な時間がかかる。少なくともそれまでの間、

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