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大学生からでは遅いのか? プログラミング教育

保護者が職場で痛感 「あったらいいな」と必要性を感じる時代に入ってきた

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

 2020年度の小学校から、順次、中学校、高校へとプログラミング教育の授業が拡大していきます。社会との結びつきや問題解決のためにコンピューターを活用する力を育成するためです。2011年に中高生向けのサービスを開始し、実績のある「Life is Tech!」(ライフズテック)の水野雄介CEOに、事業展開を通じて感じた社会の変化と今後の課題についてインタビューしました。

ライフイズテック本社オフィスで取材を受けるライフイズテックの水野雄介CEO

「ミスがあっても挑戦していくとより速い球を打つことができるようになる」

――大学に行くと、多くの学生がノートPCを開いて講義を受けている光景を見ます。最近、スマートフィンやタブレット、ノートPCを活用する高校も増えてきています。プログラミング教育は大学生になってからでは遅いのでしょうか。

 大学生だと、パソコンを使いこなせることを前提に、チームで何かに取り組む時代になってきました。
プログラミングは、論理的にアルゴリズムをつくる力が重要です。数学の力が伸びる時期は、中学2年生や3年生と言われています。コードはアルファベットで書くので、英語を学ぶときに一緒に吸収していくと学びやすいと思います。

 もう一つは、ダイバーシティーです。私は「半径2メートルから変えていこうよ」と言っています。プログラミングで作ったアプリやサービスが、お母さんのためになるかもしれない、おばあちゃんのためになるかもしれない、友だちのためになるかもしれない。もちろん自分のためかもしれない。「ちょっと困っていることを解消するものや、あったら幸せになるものを作ろうよ」と話しています。
ビジネス界で言うと、課題設定能力、課題発見能力ということになります。

 自我が芽生え始めたころ、社会の多様性を知ることは大事だと思います。誰かのために自分の時間を使うこと、そういった経験を中高生ですることで人間性が身についていくと思います。

 中高生で練習試合を何回もして、ミスがあっても挑戦していくと、より速い球を打つことができるようになります。プログラミングはツールです。その経験があると、大学生になったとき、チームでいろいろな取り組みができるようになり、世界が広がります。

 大学生では、マネジメントやファイナンスという知識も身につけ、チームで何かに取り組む経験を繰り返すことで経験を積み重ねていきます。そうした人材を企業は欲しいと言うし、起業やフリーランスで仕事をする可能性も広がります。

中高生にプログラミングが広がる背景は?

――2013年から14年にかけてプログラミング教育を取材していたころと比べると、ライフイズテックも事業規模が大きくなりました。プログラミング・キャンプやスクールなどに参加した中高生の累計数が、今年の春キャンプで4万人を超えたと聞きました。広がりの背景について教えて下さい。

 キャンプやスクールなどの参加者は、のべ人数で比較すると、前年度比130%ぐらいの伸びです。年間のべ1万人ぐらいが参加しています。

 私たちの会社の余力が増えてきたので、地方都市にある大学でキャンプを開催できるようになったからです。

 地方自治体との取り組みも増えてきました。自治体が地方創生の中で、産業育成に必要なIT人材やAI人材が必要となり、そういう人材が継続的に地域から育っていく仕組みをつくりましょうという時代になってきています。こうした事業も、前年度比3割増ぐらいの伸びです。プログラミング・キャンプは有料ですが、この場合は自治体の予算による事業のため、地元の中高生が無料で受講できるというメリットがあります。

 CPBL(クリエーティブ・プロジェクト・ベースド・ラーニング)と私たちは言っています。PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)という言葉を教育界では使いますが、これはプロジェクトごとにアクティブに問題を解決していきながら学んでいきましょうということを意味します。そこにクリエーティブを入れる理由は、例えば、貧困の問題で考えると、現場を取材して何か意見を書くだけでなく、その解決策につながるサービスやアプリをパソコンで作るところまで入れるということを意味します。

ライフイズテックGWに伊豆長岡温泉の呂回を舞台に行われた中高生対象のワークショップ

課題解決と人材育成を兼ねた自治体とのコラボ

――2014年に、千葉県流山市役所が抱える地域の課題について、グーグルとコラボして行ったハッカソンがありました。そのような取り組みを、教育に落とし込んできているということですか。

 イメージは同じです。あの時は、プログラミングができる中高生が参加し、グーグルの社員やスキルの高い大学生がメンターとしてサポートしました。

 私たちが今取り組んでいるのは、地元の中高生が一から始めても参加できるものです。九州の自治体で取り組んでいるのは、どんな子どもでも参加できます。地元の大学生をメンターとして育てて、地元の中高生を教えるという仕組みです。

――ライフイズテックは、メンターとなる大学生を集める仕組みについても工夫をしてきました。メンター候補を研修するコストは協賛するIT企業の支援を受け、ここで優秀な大学生は、結果的にそういう企業の関係者の目に留まり、就活にもプラスに働くというものでした。一つのビジネスモデルだと思います。九州の自治体での取り組みは、地元の中で循環するエコシステムに進化してきたということでしょうか。

 そうですね。それが受け入れられる時代になったと思います。プログラミング教育の必修化や地方創生が追い風になっています。

 例えば、自治体でも未来が見えている人は、やらなくてはいけないよねというマインドになってきました。5年前は、プログラミング教育をなぜやるのという人もいました。

中学・高校でプログラミング教育進まないのはサービス提供者側の問題

――昨年秋から学校でのICTの利活用を取材しています。東京の私立学校は今、少子化による定員割れへの不安があり、学校を変えていかなければ生き残れないという声をよく聞きました。校内の通信環境を整え、タブレットやノートPCなど1人1台にして、職員室の業務のあり方も含めて変えていく流れがあります。公立学校は、教育委員会が立案の主体なので学校ごとの判断は難しいですが、神奈川県立横須賀高校では地域の企業や研究所との共同研究を必修としているので、ツールがないとやりとりできないと言います。先を行く学校はどんどん先を行き始めています。その一方、パソコンルームは旧来型だと古いデスクトップ型パソコンがあり、自由に使えない学校もあります。中学校や高校のICTの利活用について、どう見ていますか。課題も教えて下さい。

 徐々に進んでいるという感じでしょうか。実践例が少ないことと、使える教員が少ないというところに課題があると思います。使える教員が少ないというのは、サービス提供者側の問題だと思います。

 ビジネス界では、ユーザー・エクスペリエンス(user experience)と言う言葉があります。ユーザー経験と訳され、これは利用者にとって使いやすさを考えるときに使います。これを、ラーニング・エクスペリエンス(learning experience)という言葉に置き換えて考えると、学びやすさや子どもたちの居心地ということになります。提供されるサービスに、まだまだ利用者本位でないものが多いと思います。
高齢者も含めてみんながスマホを使うようになったのは、ガラケーよりスマホの方が使いやすいからです。

 普及という意味では、利用者の使いやすさや効率化という点が大きく影響すると思います。つまり、提供されているサービスの差です。

 教員が保守的だから進まないという議論がありますが、私たちはサービス提供者側が教育現場に寄り添ったサービスを提供できるかが普及の鍵だと考えています。

ライフイズテック社会課題をどう解決していくか、ロジカルな思考も重要になる

――どこをどう改善していけば、教員の負担を増やさずに普及のスピードが速まっていくのでしょうか。

 教員の仕事が楽になるのなら導入したいと思うはずです。校内の通信環境やクラウドの中でどういう仕組みで何を管理していくのか。教員同士の共有や教員と生徒との共有、連絡手段といったツールの可能性もあります。様々な仕組みがシームレスにつながっているほど使いやすいと思います。

 教員の時間の有効活用という点で考えると、例えば教材を作る時間です。作るのが好きな教員ならいいですが、そうでない教員もいます。教材を全国でシェアできる仕組みがあれば、30分で終わるとします。そうすると、今まで2時間かかっていたのが30分で終わり、残りの1時間30分を生徒のために使えるようになります。

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