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京都クライシス 観光振興にブレーキを踏む時期だ

町家がなくなり町家風現代建築だけが残ったら、町に「京都らしい」雰囲気は残るのか?

西村宏治 朝日新聞GLOBE記者

ホテルが変える景観

 ひとつは景観破壊の問題だ。京都の古い街並みは、第二次大戦で大規模な空襲を受けなかったからこそ残ってきた貴重なものだ。それは、あまり京都らしさを感じさせないビルが並ぶ五条通や、堀川通、御池通の歴史を振り返れば分かる。この地域では第二次大戦中、防火のために建物が強制的に撤去させられたからだ。(川口朋子『建物疎開と都市防空』、2014年)

京都・西村1拡大堀川通の街並み。京都でも早くからマンションが増えた地域だ

 すでにマンション建設などで景観はかなり傷つけられている。外国のガイドブックなどには、昔の日本らしい風情を期待すると「失望させられる」と書かれている。(たとえば、ROUGH GUIDES JAPAN, 7th ed. 2017, pp.421

 それでも市の調査では、16年度に4万146軒の町家が残っていた。08~09年度調査の4万7735軒からは減ったものの、決して少ない数字ではない。(京都市都市計画局「京町家まちづくり調査に係る追跡調査の結果について」、2017年5月)

 京都には、瓦を使ったり、黒や茶色を使ったりした町家にあわせたデザインの現代建築も多い。だが、これらも町家がところどころ残っているから違和感がないと言える。町家がなくなり、「町家風」の現代建築だけが残ったらどうなるのか。それでも町は「京都らしい」魅力的な雰囲気を残すのだろうか。

 もちろん、そんなことはないだろう。このところ街中を歩いていて、京都らしさが忽然と消えたように感じる場所がある。変化は、急に来たわけではない。何十年もかけて少しずつ変わってきたものだ。ところが、その町の景観の鍵を握っていた町家がなくなると、とたんに町の風景が色あせるのだ。

京都・西村1拡大町家とマンション、駐車場が交互に残る。いまの京都を象徴する街並みだ

非日常が日常をのみ込む

 もうひとつ、ホテル建設をめぐる問題を通じて感じたのは、住民と観光客との間にある大きな断絶だった。それは、住民の「日常」と、観光客の「非日常」との断絶だ。つまり住宅が消えてホテルや民泊になるということは、日常の空間が消えて、非日常の空間が広がるということだと言える。

 観光とは、非日常だ。だから迎える側も、普段の生活ではしないことを演出しようとする。考えてみてほしい。あなたがその町で長く暮らすとしたら、通りに面して外湯をつくったり、多くの室外機を並べたりするだろうか。露天ぶろや景色のいい部屋をつくることを少しゆずっても、近所の人と仲良くやっていくことを考えないだろうか。

 もちろん観光客の非日常と、市民の日常が交わらなければ、問題は少ない。京都にも、受け入れる余裕はある。清水寺や金閣寺、平安神宮などに限って人が集まっている分には摩擦もさほど起きなかったと思う。

 だが、観光客が大幅に増え、SNSでさまざまな情報が出回るようになって、観光の姿は変わった。観光客の非日常が、京都人の日常にあふれ出てきてしまったのだ。

 その典型が、錦市場の変わりようだろう。「京の台所」と呼ばれ、プロの料理人が仕入れに集まり、さらに近所の人たちが買い物に訪れていた商店街の面影は、もはやない。あるのは、もっぱら食べ歩きをする外国人観光客の姿だ。

京都・西村1拡大外国人を中心とした観光客でにぎわう錦市場

 規模の差はあるが、同じようなことは各地で起きている。住宅がなくなってホテルや民泊が増えると、周辺には日用品店やスーパーではなく、土産物店や飲食店が増えていく。さらに民泊需要、ホテル需要で地価が上がれば、家賃も上がる。そうすると、古くからの住民は住めなくなって引っ越すしかない。それが、またホテルや民泊になる。

 つまり京都は、特に中心部は、暮らすという日常を維持するのが難しい町になっている。このままいけば日常が非日常にのみ込まれるのではないか。そう思うほどの勢いだ。

 その理由のひとつは、もちろん円安や国、地方の観光振興策による外国人観光客の増加だ。だが、見逃せないのは、そこに地場産業の衰退というもうひとつの問題があることだ。もし地域経済がうるおっていたなら、これほどまでに観光客向けの商売が広がることはなかったはずだからだ。

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筆者

西村宏治

西村宏治(にしむら・こうじ) 朝日新聞GLOBE記者

2000年朝日新聞入社。静岡、神戸、東京、長野、仙台、大阪、京都の各地で勤務。勉強のために新潟にも1年いました。GLOBEでは「デジタルプライバシー」特集などを担当。最近の関心領域はITと観光です。東京でお気に入りの町は谷根千で、趣味は歌三線。

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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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