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京都クライシス 観光振興にブレーキを踏む時期だ

町家がなくなり町家風現代建築だけが残ったら、町に「京都らしい」雰囲気は残るのか?

西村宏治 朝日新聞GLOBE記者

京都は観光都市ではない?

 「京都は観光都市ではない」。京都市の門川大作市長は、ことあるたびにそう言う。観光名所が多くなったのは、歴史の結果にすぎない。一方で京都には、京都大学をはじめとした大学を多く抱える「文教都市」という側面がある。なにより、「ものづくり都市」としての側面があるというのだ。

 だが、それは京都が観光一色に染められることへの懸念から来る言葉だろう。

 実際のところは、京都はずっと観光の街ではあった。江戸時代にはすでに物見遊山の客も多く、1780(安永9)年には、最初のガイドブック『都名所図会』が発行された。いまでも使えるほどのイラスト入りの案内本だ。(宗政五十緒 『都名所図会を読む』、1997年)

 明治維新後には、東京遷都にともなって活力を失った京都の町を再興させるため、あるいは外貨を稼ぐため、絶えず観光振興に力が入れられてきた。明治に始まった「都をどり」などの取り組みはそのひとつだ。さらに、たとえば京都市観光課は、戦前の1938年に『旅館サービス読本』を出版し、旅館などが外国人観光客にどう対応すべきかなどを説いている。

 だが、それ以上にものづくり都市の色合いが濃かったと言える。元々、工芸などの伝統産業があったところに、明治以降は京都府市が積極的な産業政策を採った。京大との連携もあり、島津製作所を初めとした近代的な製造業群が生まれた。さらには西陣織などの織物産業も高度化し、全国に販路を広げて隆盛を誇った。こうした産業が京都市中の経済活性化のエンジンの役割を担ったのだ。

 ところがバブルの崩壊後、伝統産業は苦境に陥る。その象徴が西陣織だ。西陣織工業組合によると、1990年に2800億円近かった西陣織の推定出荷額は2014年には373億円までになった。(西陣織工業組合「西陣生産概況」、2014年)職人たちの多くが職を失い、それにともなって外食、小売りなども衰退した。そうして生まれた空き家に入り込んできたのが民泊、というわけだ。

 観光業は外国人観光客の増加にともなって急速に規模を拡大している。13年に約7000億円強だった市内の観光消費額は、17年に1兆1268億円にまでふくらんだ。人口減少や市場の縮小、地場産業の衰退に悩む京都にとって、観光業は希望の光とも言える。(京都市産業観光局「京都観光総合調査」、2017年)

京都・西村1拡大「上御霊さん」とも呼ばれる御霊神社

観光は主要産業になるのか

 しかし、どこまで観光に頼るべきかは、慎重に検討すべき課題だ。それには経済的な理由と文化的な理由がある。

 経済的な側面から考えると、観光業は浮き沈みが激しい産業だ。特に外国人観光客は、外交関係や為替の変動の影響を大きく受ける。あした突然、客足が途絶えることもあり得る産業だ。そうした浮き沈みを吸収するために、雇用も非正規雇用などの不安定な雇用が多い。

 さらに、京都のように古い寺社仏閣などが注目される観光地は、積極的な集客策を採るのも難しい。テーマパークのように、新しいアトラクションを追加して集客するといった手段は取りにくいだろう。

 それでも観光しか頼る道がないというなら、したたかな戦略が必要になる。たとえば私が17年に取材したタイ・チェンマイでは、中国人観光客が急増し、街中に中国語の看板があふれるまでになった。観光客と地元住民とのあつれきも起きた。すると、中国側に「じゃあもう行かない」という雰囲気が生まれ、タイ側があわてて友好を演出する、といったことになった。

 さらに、観光消費をいかに地元に還流させるかも大きな課題になる。チェンマイでは、次々に中国資本のレストランやホテル、土産物店ができ、ツアーを仕切るのも中国の旅行業者。さらに中国国内で旅行代金の決済が行われ、決済の流れを捕捉するのも難しい状況が出始めていた。(朝日新聞GLOBE+「学食にまで行列が…東南アジアを悩ませる外国人観光客」、2017年5月7日付)

チェンマイ拡大2017年3月のチェンマイの街。中国語の看板があちこちにあった

 同じようなことは京都でも始まっている。中国など海外資本の民泊業者は多いし、中国人の団体が集まるレストランもある。着物のレンタルなどの新しいサービスを手がけるところも出てきた。観光業を経済の柱にするなら、こうしたところに流れるお金なり、事業なりをどうやって地元に定着させるか、知恵を絞る必要があるだろう。

 海外を含め、地元以外の企業が事業を営むことは、資本が限られる状況なら、お金のまわりが良くなる効果を生む。しかし混雑や騒音といったネガティブな側面を引き受けている住民に恩恵がなければ、なんのための観光振興かという話になる。さらに外部資本頼みでは、観光客が急減したときに、一気に撤退の憂き目にあう恐れもある。

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筆者

西村宏治

西村宏治(にしむら・こうじ) 朝日新聞GLOBE記者

2000年朝日新聞入社。静岡、神戸、東京、長野、仙台、大阪、京都の各地で勤務。勉強のために新潟にも1年いました。GLOBEでは「デジタルプライバシー」特集などを担当。最近の関心領域はITと観光です。東京でお気に入りの町は谷根千で、趣味は歌三線。

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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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