メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

米中新冷戦は「知財戦争」。日本のとるべき道は?

中国は米国の「知財の尾」を踏んだ。技術なくして安全保障なし

荒井寿光 知財評論家、元特許庁長官

3 中国の知財力が米国に肉薄

拡大「安心して購入してほしい」と訴えるファーウエイの呉波氏==2019年5月21日、東京都目黒区

(1)特許出願件数は世界一に

 中国はかって四大発明(羅針盤、火薬、紙、印刷)を成し遂げ、世界の文明の中心であったことが、中国人の誇りだ。中国は特許を奨励しており、2017年の特許出願件数は138万件に達し、米国の61万件、日本の32万件を大きく上回り、7年連続で世界一を記録している。

 最近は、通信、AI,ビッグデータなどの先端分野では、中国の特許は量が多いだけでなく、質が高いと言われている。

(2)3段階の発展

 中国で知財が注目されるようになったのは、鄧小平国家主席による改革開放路線以降である。中国の知財は3段階の発展を遂げている。

 第1段階「ニセモノ大国」時代(1982年~2001年)

 1982年に憲法が改正され、発明の奨励が書かれた。1985年には専利法(日本の特許法にあたる)が制定された。日本の明治期と同じく、外国から技術を導入するためには、特許法の制定が必要であり、日本から100年遅れだった。当時は繊維雑貨や軽工業品の生産が中心であり、知財はあまり守られず、外国製品のニセモノが多く作られ、外国にも輸出され、「ニセモノ大国」と外国から非難された。今も引き続き中国はニセモノ大国でもある。

 第2段階「特許大国」時代(2001年~2015年)

 中国は2001年にWTOに加盟した。日米欧からニセモノ問題が非難され、ニセモノ退治に力をいれた。同時に中国独自の技術開発に力を入れることとし、発明や特許出願を奨励した。2008年に「国家知的財産権戦略綱要」を策定し、知財を国家戦略とすることを決め、国家全体で知財戦略を推進することになった。2011年には世界一の「特許大国」になり、その後も出願件数を増やしている。

 第3段階「知財強国」時代(2015年~現在)

 2015年には国家第13次5ヶ年計画(2016年~2020年)で「知財強国」を国家目標にした。知財強国の定義は発表されていないが、知財競争において、米国に負けないこと、米国に勝つことと受止められている。

4 中国の知財強国への手段

 現在、世界の知財を支配しているのは米国なので、中国は米国と類似の知財システムを作り、米国に追いつき、追い越すことを狙っている。

(1)中国の技術力と知財力の向上

①自主技術開発

 1993年に科学技術進歩法を制定して以来、科学技術予算を増加し続け、自主技術開発に力を入れている。企業や大学に補助金や減税措置などにより発明や特許出願を奨励している。

②外国技術の導入

 企業ベースでは合弁により外国技術を導入している。人的ベースでは、「海亀」(中国からアメリカなどの海外へと渡り、そこで得た知識や技術を中国に持ち帰る若者たち)や「千人計画」(海外のハイレベルの研究者1000名を中国に招致する事業)により海外の先端技術を中国に導入している。

(2)米国並みの知財保護

①損害賠償額の引き上げ

 知財は経済的に重要なので、知財侵害の場合の損害賠償額を引き上げると習近平国家主席が言明している。その結果、損害賠償額は上がり始めており、最近10年間(2007年~2017年)の最高損害賠償額は57億円で、米国の2860億円には及ばないが、日本の17億円を上回っている。

②最高人民法院に知財法廷を設置

 知財の裁判は、技術的に専門性が必要なので、2019年1月から最高人民法院(日本の最高裁に相当)に知財専門法廷を作った。米国や日本では知財裁判所が高裁レベルであるのに対し、中国は一段上の最高裁に設置して、世界を驚かせた。

(3)国際的に戦える知財人材の育成

①米国での弁護士資格の取得を奨励

 米国を含め外国で活躍できる中国人弁護士が増えている。

②米国流の企業の知財経営

 中国企業の幹部には米国企業の知財部門経験者が多く、中国企業の知財経営は米国流だ。日本独自の流儀を続ける日本企業より国際的で知財競争に強いと言われている。

(4)中国の知財力を輸出

①国際出願の奨励と国際標準の取得

 中国は知財分野における米国支配の構図を変えるため、中国の影響力を増そうとしている。

 WIPO(世界知的所有権機関)のPCT(特許協力条約)出願を奨励した結果、既に1位の米国に接近し、日本を抜いて2位になっている。(2017年、1位米国5.7万件、2位中国4.88万件、3位日本4.82万件)。現在注目されている次世代の通信システム5Gにおいてもファーウエイが国際標準をリードしている。

②WIPOなどの国際機関に浸透

 上位ポストを獲得し、影響力を増している。

③裁判関連情報を積極的に海外発信

 裁判所のインターネット公開や判決の英訳により、中国の知財裁判に関する情報を大量に流すことにより、中国の知財司法を海外に普及させようとしている。これは国際放送と同じ考えだ。

 これに対し、日本の民事訴訟はIT化、AI化が中国、韓国、シンガポールに比べ、はるかに遅れており、「世界遺産?」と揶揄されている。(西口元早稲田大学元教授、「法律のひろば」2019年5月号、p22~26)

④一帯一路戦略の中での法務協力

 2019年4月の一帯一路戦略首脳会議の共同声明で、法務協力を進め、法律援助を行うことが言われている。中国は、自国の知財司法システムを国際的な司法インフラにする、少なくとも「一帯一路の裁判所のセンター」になることを目指している。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

荒井寿光

荒井寿光(あらい・ひさみつ) 知財評論家、元特許庁長官

1944年生まれ、1966年通産省(現経済産業省)に入り、防衛庁装備局長、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知的財産戦略推進事務局長を歴任。日米貿易交渉、WTO交渉、知財戦略推進などの業務に従事。WIPO(世界知的所有権機関)政策委員、東京大学、東京理科大学の客員教授を歴任。現在は、日本商工会議所・知的財産戦略委員長を務める。(著書)「知財立国が危ない」「知財立国」(共著)

荒井寿光の記事

もっと見る