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増える中年未婚者 生活リスクに備えるためには

皆婚社会からおひとりさま社会へ 『単身急増社会の希望』著者が考える私たちの針路

藤森克彦 日本福祉大学教授、みずほ情報総研主席研究員

 長らく日本では、正社員として働く夫と妻と子どもからなる世帯を「標準」として、家族が様々な生活上のリスクに対応してきた。しかし、中年未婚者が増加するなど「標準世帯」に属する人は減少し、従来よりも家族の支え合いが難しくなっている。本稿では、中年未婚者の増加の実態をみた上で、中年未婚者が抱える生活上のリスクと、それへの対応を考えていく。

藤森さん140代から50代の将来の生活リスクをどうするのか airdone/shutterstock.com

「皆婚社会」と言われた日本はもうない

 中年未婚者が増加している。1995年から2015年にかけて40代と50代の人口は6.2%程度減少しているというのに、上記年齢階層の未婚者数は、1995年の277万人から2015年の650万人へと2.34倍も増えた(図表1)。40代と50代の人口に占める未婚者の割合も、1995年の7.6%から2015年には19.0%に高まっている。

藤森さん図表1

 無論、この中には今後結婚をする人もいるだろう。しかし、40代以降の婚姻率は、20代や30代の婚姻率を大きく下回っている。「皆婚社会」と言われた日本は、1990年代以降、大きく変化している。

 ところで、中年未婚者の増加に対して、「困ったものだ」「日本の将来はどうなっていくのか」という声を聞くこともある。

 確かに、未婚者の増加が社会に与えるインパクトは大きい。筆者は公的年金制度の分析を行うことがあるが、年金制度が抱える課題の多くは、少子化が原因となっている。そして少子化をもたらす大きな要因が未婚化だ。

藤森さん1「おひとりさま社会」は何をもたらすのか kenchiro168 /shutterstock.com

 だからといって未婚者を批判するのは、おかしな話だ。言うまでもないが、結婚するかしないかは、個人の私的領域に属する事柄である。人は、「年金のため」「社会のため」といった大義のために結婚するのではない。

 むしろ考えていくべきは、未婚者が増加している背景であり、本人の意思に反した未婚が増加していて、その要因が社会の側にあるのならば、それを取り除くことが必要だ。また、中年未婚者が抱える生活上のリスクに対しても、どのような対応をしていくかを考えていく必要があるだろう。

1.「単身世帯に属する中年未婚者」と「二人以上世帯に属する中年未婚者」

 中年未婚者といっても、一人暮らしの人もいれば、親と同居する人もいる。前掲の図表1をみると、1995年は、40代と50代の一人暮らし(単身世帯)の未婚者数が、親と同居する未婚者数を上回っていた。しかし、この20年間で親と同居する中年未婚者が急増して、2015年現在、親と同居する中年未婚者数は、単身世帯の中年未婚者数を上回っている。

 そこで以下では、40代と50代の未婚者(以下、「中年未婚者」とする)を、「単身世帯に属する中年未婚者」と「(親などと同居して)二人以上世帯に属する中年未婚者」に分けて、生活実態や生活上のリスクなどを考察していこう。

 本稿で用いるデータは、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構が2015年に実施した「第4回 独身者(40~50代)の老後生活設計ニーズに関する調査」である。これは、全国の40代と50代の独身者――結婚経験がなく、かつ現在、異性と同棲をしていない人――の3506人(有効回答数2275人)を対象に行ったインターネット調査である(調査期間2015年12月10~14日)。筆者も、同調査研究会に研究員として参加した。

 なお、「二人以上世帯に属する未婚者」の同居人をみると、その93.4%(男性94.9%、女性92.2%)は親である。親が亡くなれば単身世帯となる可能性が高いので、「単身世帯予備軍」と呼ぶこともできよう。

藤森さん1こんな日常、送っていませんか? polkadot_photo/shutterstock.com

2.中年未婚者の生活上のリスク

 以下では、「単身世帯に属する中年未婚者」と「二人以上世帯に属する中年未婚者」を男女に分けて、①経済状況、②家族への介護状況、③公的年金の加入状況、を考察していこう。

(1)経済状況

 「本人が過去1年間に得た年収」をみると、中年未婚者の26.5%が本人年収100万円未満となっている。単身世帯と二人以上世帯に分けると、本人年収100万円未満の比率は二人以上世帯において高い。特に、二人以上世帯の女性の4割弱が、本人年収100万円未満となっている(図表2)。

藤森さん図表2

 次に、従業上の地位をみると、中年未婚者に占める正社員の割合は39.5%、非正規労働者の割合は26.5%となっている。単身世帯と二人以上世帯に分けると、二人以上世帯に属する中年未婚者は、単身世帯よりも正社員の比率が低い(前掲、図表2)。一方、非正規労働者の割合は、世帯類型よりも男女の違いが影響している。

 さらに、無職者の比率をみると、中年未婚者の16.9%が無職者となっている。中でも二人以上世帯を形成する中年未婚者では、2割前後が無職者となっていて、単身世帯よりも高い水準にある。

 こうした状況からすれば、二人以上世帯に属する中年未婚者は、単身世帯の中年未婚者に比べて、本人の年収だけで生活を維持することが困難な人の比率が高く、親との同居によって生計を維持していることが推察される。実際、二人以上世帯の中年未婚者において、親が「世帯の生計維持の中心者」となっている人の割合は、男性43.9%、女性66.8%となっている。さらに、本人年収100万円未満の二人以上世帯に属する中年未婚者に限ってみると、「親」が生計維持の中心者の割合は、男性の70.4%、女性の80.2%にのぼる。

藤森さん1社会保障制度はどうしたら維持できるのか Expensive/shutterstock.com

(2)家族への介護状況

 中年未婚者に対して「家族に要介護者がいるか(いたか)」を尋ねると、「要介護者はいる(いた)」の割合は、中年未婚者の16.8%となっている。中年未婚者を単身世帯と二人以上世帯に分けると、二人以上世帯女性 21.5%、二人以上世帯男性 18.2%、単身女性 14.3%、単身男性 9.6%となっている。二人以上世帯の2割程度が、家族に要介護者を抱えているか、抱えていた。

 そして家族に要介護者がいる(いた)人に対して「どのような対処をしているか(したか)」を尋ねると、「仕事をやめて自分で介護」は中年未婚者の17.5%にのぼる。さらに、単身世帯と二人以上世帯に分けて「仕事をやめて自分で介護」した人の割合をみると、二人以上世帯男性 23.1%、二人以上世帯女性 19.9%、単身男性 11.6%、単身女性 5.5%となっている。二人以上世帯では「仕事をやめて自分で介護」という対処をした人の比率が、単身世帯よりも高い。

 ところで、先述の通り、二人以上世帯に属する中年未婚者は無業者の比率が高い。そこで二人以上世帯に属する無職の中年未婚女性に対して「無職の理由」を尋ねると、上位3位は、①親の介護など家庭の都合で手が離せないから(37.7%)、②希望する仕事に就けないから(27.5%)、③仕事をするには体がきついから(23.9%)となっている。二人以上世帯に属する無職の中年未婚女性の4割弱は、「親などの介護など、家庭の都合で手が離せないから」を無職の理由にあげており、最も高い。

藤森さん1「介護の社会化」というものの……  pixelheadphoto digitalskille /shutterstock.com

 一方、二人以上世帯に属する無職の中年未婚男性に無職の理由を尋ねると、上位4位は、①仕事をするには体がきついから(29.0%)、②希望する仕事に就けないから(27.1%)、③自分が仕事に就かなくても生活できるから(23.4%)、④親などの介護など、家庭の都合で手が離せないから(21.5%)、となっている。二人以上世帯に属する無職の中年未婚女性ほど高い割合ではないが、2割程度の同男性が無職の理由として「親などの介護」をあげている。

(3)公的年金の加入状況

 最後に、公的年金の加入状況をみると、中年未婚者の58.7%は、国民年金に加入していて、厚生年金に加入していない(図表3)。

藤森さん図3取り換え

 国民年金の受給額は満額で月額6.5万円であり、国民年金だけで老後生活を送るのは厳しい。特に、二人以上世帯の中年未婚者は、単身世帯の中年未婚者よりも国民年金の加入者の比率が高い。また、国民年金保険料の未納者も、中年未婚者全体で8.1%にのぼっており、これら人々は将来無年金者となることが懸念される。

 このように、中年未婚者には国民年金加入者が6割弱おり、また、将来無年金者となる可能性のある未納者も1割弱いることが推察される。中年未婚者が高齢期を迎えた頃に、生活保護受給者の急増が心配される。

藤森1両親と死別した後、どうするかが大きな課題になってくる  leungchopan/shutterstock.com

3.中年未婚者の抱える生活上のリスクへの対応

 では、中年未婚者の増加に対して、どのような対策が必要だろうか。

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