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新たな政府の農産物輸出拡大策
政府は6月4日、農林水産物の新たな輸出拡大策をまとめた。農林水産省と厚生労働省にまたがっていた海外交渉や輸出手続き審査の権限等を農林水産省に一元化する。特に、衛生・防疫管理を理由とする外国の輸入規制に対応するための国内審査などの窓口一本化やこれらの規制の解除や緩和のための国際交渉を重視しているという。
前回の参議院選で苦戦した地方区で、農業票にアピールする狙いがあると言われている。日米貿易交渉で交渉妥結を参議院選挙に先送りした結果、逆に農業界からは、参議院選後に政府は農産物関税でアメリカのトランプ政権に譲歩するのではないかという懸念が出ている。このような懸念に対して、安倍政権は農業や農家に十分な目配りをしていることを示したいのだろう。
その動機は別にして、人口が減少していく中で、地方が活力を維持していくためには、農産物をはじめとする産品の輸出を振興していくことには意義がある。また、農産物の貿易には、ガット・WTO体制が曲がりなりにも機能し、各国とも関税などの伝統的な貿易制限措置が採れなくなっている中で、動植物の検疫措置や食品の安全を理由とする規制が、貿易を制限する非関税措置として使用されるようになってきている。各国の非関税措置を緩和または解消するための交渉が重要であることは否定しない。
なぜ輸出が増えないのか?
しかし、それだけでは輸出は増えない。
例えば、米についてこのような非関税措置がない東南アジアの諸国に米は輸出されている。しかし、米輸出が増えない理由を商社関係者などに聞くと、簡単明瞭だ。日本の米は品質は良いのだが、価格が高すぎるというのだ。
つまり価格競争力がないというのである。農林水産省の立てる輸出戦略はいつも価格を無視してしまう。農林水産省は、外国から農産物が輸入されるときは国産の価格が高く価格競争力がないので関税が必要だと主張するのに、日本の農産物を輸出するときは品質が良ければ売れるはずだと言い、価格競争力を無視する。
品質が良くて消費者は輸入品の2倍も3倍もの値段で国産農産物を買うのであれば、輸入関税は要らない。輸入も輸出も同じ貿易の側面である。国内である製品の価格が国際価格よりも高いと輸入が行われ、安いと輸出される。輸入も輸出も、基本的には価格で動く。
農林水産省の対応は、一見精神が分裂しているように思える。しかし、農林水産省をはじめとする農業界にとって、輸出が増えることに越したことはないが、現在でもわずかな輸出が農業を救済するほど増えるとは期待していない。
増えて困るのは輸入である。アメリカやオーストラリアなどからの輸入が増えると、日本農業は存亡の危機を迎えると彼らは考えている。だから輸入については国産農産物に価格競争力がないこと、つまり価格が重要であると主張するのである。