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「年金は100年安心」に終止符を

公的年金をなくせば小さな政府論者の思うつぼ。年金目減りを前提として現実的議論を

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

拡大Khongtham/shutterstock.com

「働け」「倹約しろ」「投資しろ」

 以前、『「老後は持ち家」は今や昔。年金より住宅を!』で、こう書いた。

 年金について、政府はもっと正直に呼びかけた方がいい。「老後の生活は、年金だけでは頼りないですよ。持ち家を買って、貯金するなり、家族で支え合うなりして、まずは自助努力をしてくださいね」と。その上で、セーフティーネットを設けて、「さまざまな事情で老後の備えが十分にできなかった方々にも、最低限の生活は保証します」というのが責任ある政府の姿であろう。
 ところが、こうはっきりと言えない事情が政府にはある。2004年の年金改革で「100年安心」と謳ってしまったからだ。
 これは「国民の老後生活は100年安心」だったわけではなく、「年金制度の存続が100年安心」だったのだ。制度は続いても、少子高齢化を克服できなければ、老後に受け取れる年金額は目減りしていく。

 5月22日に、ついに政府からこうしたメッセージが出てきた。

 金融庁の審議会が「高齢社会における資産形成・管理」についてまとめた報告書案で、次のような文言が盛り込まれた。

・少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい
・老後の収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる

 年金の給付水準が目減りする見通しを明記し、「自助」を促すとは、ずいぶん思い切ったことを書き込んだものだ、と驚いた。

 ところが、セーフティーネットについて何も触れず、「働け」「倹約しろ」「投資しろ」というメッセージしか発していないので、これは大変な反発が起きるな、とも思った。

 案の定、5月22日の公表後、Yahoo!リアルタイムで「自助」がしばらくトレンドワードになり、怒りのツイートが相次いだ。

 「『年金は100年安心な制度』だったはずよね……」
 「自助するから年金払わすな」
 「年金徴収やめないけど、将来に向けて自助努力しろっていうなら消費税やら所得税やらの税率引き下げをするか、給与引き上げを厳命して欲しいところ」

 審議会では「年金が減る事実をはっきり言うべきだ」「現役世代の危機意識を引き出すべきだ」という意見が出たようだが、6月3日にまとまった報告書では「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい」という文言は消え、「年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている」という、給付が減るのかどうかがよくわからない表現になった。公的年金制度への不安を招き、保険料を納めない人が増えることを恐れたのだろう。


筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集長代理

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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