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「年金は100年安心」に終止符を

公的年金をなくせば小さな政府論者の思うつぼ。年金目減りを前提として現実的議論を

山口智久 朝日新聞オピニオン編集部次長

拡大CA-SSIS/shutterstock.com

公的年金をなくせば「小さな政府」論者の思うつぼ

 少子高齢化が続いている以上、年金支給額が目減りしていくのは確実であり、それを踏まえた上で対策を議論するべきだろう。いつまでも「100年安心かどうか」をめぐって議論していてもしょうがない。民主党政権を担っていた人たちも、それを認識していた。

 政府・与野党は「100年安心というのは、支給額ではなく制度の存続のことでした。誤解を与えて申し訳ありませんでした」と表明した方がいい。そうしないと国民は、公的年金をどう捉えたらいいのかわからないままだ。

 ここで「公的年金は破綻している」「保険料納めてもしょうがない」と早とちりしてはならない。公的年金をなくせば、あらゆる福祉制度を最小化する「小さな政府」を志向する人たちの思うつぼである。

 公的年金は、「長生きリスク」に備えた社会保険である。人間、何歳まで生きてしまうか、わからない。長生きすればするほど、生きるために金が必要だ。貯金があっても尽きてしまうかもしれない。その点、公的年金は、死ぬまで一定額を支給してくれる「終身年金」だ。こんな金融商品は、民間ではまずないだろう。

 民間の個人年金で多いのは、老後の決まった期間だけにもらえる「確定年金」だ。死ぬまでもらえる「終身年金」もあるが、もらえる金額が少なかったり、納める保険料が高かったりする。

 平均寿命まで生きた場合、公的年金で納めた保険料分のうち、どれくらいを支給されて戻ってくるか、あるいはどれくらい「払い損」になるかを試算する人たちがいる。そういう試算を出して何が言いたいのだろうか。保険というのは、リスクが訪れなければ払い損になるものだ。払い損を恐れていたら、自動車保険も生命保険も、どんな保険にも入れなくなる。

 公的年金には、収入が低くて保険料を納められない人には、免除したり、猶予したりする制度もある。

 さらに「富の再分配機能」もある。老後にもらう支給額は、働いているときに納めた保険料に応じて決まるが、所得が低くて少なくしか納められなかった人には、多めに支給されている(多く納められた人には、少なめに支給される)。また、税金も投入されるので、納めている税金を取り戻すことにもなる。

 このほか、一家の大黒柱が亡くなった時や、障害者になった場合にも年金を支給してくれる。

 さまざまなメリットがある公的年金だが、支給額は目減りしていく。それを補うためのセーフティーネットをまずは議論すべきだろう。公的な住宅手当制度、生活保護とは切り離した低年金高齢者への支援制度、それらの財源として相続税を引き上げて、富裕層が使い切れずに残していった資産を社会に還元することなどを考えてもいい。

 そうした議論を後回しにし、この政権は国民に「倹約しろ」「働け」「投資しろ」と呼びかけた。

 野党が反発し、世論に火がつくと、選挙に不利になるとみて、何と、報告書を受理しないで、ないものにしてしまった。これでは公的年金をどうとらえていいのか、国民はますますわからなくなってしまった。

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筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集部次長

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

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