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「老後2000万円不足」の真犯人(上)

金融庁が金融機関を支援し、資産形成ビジネスに加担し、老後の不安を煽った

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

 金融庁の作業部会が6月3日に公表した報告書について、金融庁が火消しに奔走している。報告書は老後に備え資産運用の重要性を指摘し、国民に対して資産形成や運用管理の必要性を提言するメッセージを盛り込んだ。これに対して、野党やインターネット上の個人から批判が相次いでいる。

拡大問題となった試算(第21回市場ワーキング・グループ 厚生労働省資料)

意見集約できていたのか?

 この報告書は金融庁の金融審議会の作業部会が策定したもの。金融庁は人生100年時代を見据えた高齢社会において資産寿命を延ばす顧客の行動をサポートするため、金融サービス提供者に求められる対応はどのようにあるべきかといった議論の結果を取りまとめた。全容は約60ページにも及ぶ。

 作業部会は大学教授などの有識者のほか、民間の金融機関やファイナンシャルプランナーといった専門家など、利害関係者が横断的に議論に参加した。金融庁以外の関係省庁や業界団体も数多く参加した。

 これ自体はどこの省庁でもよくやる手だ。しかし、金融庁は1行政機関の作業部会に異常に多くの関係者を関与させていた。多くの関係者が様々な注文を付け、議論は空中分解していた面もあり、バランスが悪かったのではないか。

 一部の参加者は「オールジャパンで作った」と胸を張る一方で、「メッセージの出し方によっては諸刃の剣になる」との懸念も当然あり、温度感の違いは否定できない。

マスコミのあおり報道が元凶

 ことの発端は大手メディアのあおり報道が主因だ。「平均的な収入・支出で、夫婦のみの高齢夫婦無職世帯では不足額が毎月約5万円で、20~30年間で総額1300万~2000万円となる(毎月の赤字額5.5万円×12カ月×20~30年)」というものだ。

 もっとも、この金額も「こうだったらこうなる」というかなり大雑把な機械的な試算に過ぎない。支出については、例えば老人ホームなどの介護費用や住宅のリフォーム費用など特別な支出は含んでいない。

 しかし、メディアの一部が「少子高齢化による公的年金制度の限界を自ら認め、国民の自助努力が必要」と批判的なスタンスをとった。この「2000万円不足」が切り取られ、独り歩きした。

 さらに「老後受け取る公的年金のみでは老後の生活が安心できない」と追い打ちをかけた。これらがインターネットなどで拡散し、報告書を公表した金融庁が事態の収拾に奔走せざるを得なくなった。

 国会会期中で、政府・与党批判の材料難に喘ぐ野党が一斉に飛びつき、「国民に不安をあおる」と一斉に批判に転じた。野党は参院選の格好の争点にしたい考えだ。

 しかし、やめておいた方がいい。政権がどの党であろうがなかろうが、日本の社会保障制度は見直し不可避であるからだ。むしろ国会で多数を占める政府・与党が明確な方針を打ち出すべきだったはずなのに、わが国では歴史的にほとんどの場合、選挙に負けるのを避けるため先送りしてきてごまかしてきたのだ。

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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。著書に『点検ガバナンス大改革―年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値』(R&I編集部編共著、日本経済新聞出版社)などがある。17年7月退社。

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