「老後2000万円不足」の真犯人(上)
金融庁が金融機関を支援し、資産形成ビジネスに加担し、老後の不安を煽った
深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

閣議後記者会見で質問に答える麻生太郎財務相兼金融相=2019年6月7日、東京・霞が関
安倍政権は国政選挙控え早期収拾
現政権もしかりである。
麻生太郎金融相は6月7日、報告書の一部内容について「表現が不適切だった」と陳謝。「老後を豊かにするための額を一定の前提で出した試算だ」といち早く釈明した。政府・与党として今夏の国政選挙を控え、国民の反感を買うのは是が非とも避けたく、早期に事態収拾を図りたい。第1次安倍内閣は「消えた年金問題」の発覚で、事実上退陣に追い込まれたトラウマがあるためだ。
もちろん、政府は現時点で公的年金の限界など決して認めていないし、将来においても自ら公的年金の限界を認めるわけにはいかない。金融庁としては民間有識者らの作業部会の意見を淡々とまとめたつもりなのだろう。
政府はこれまで先細る公的年金を補完するのは企業などが運営する企業年金だとの立場をとってきたが、報告書は「企業年金の役割も重要である」と言及するにとどめ、個人の自助努力の重要性をより鮮明にしている。自助を強調するあまり、一緒に検討しなくてはならない重要な視点を意図的に外して妙な報告書が完成したのである。
個人の自助努力とは、企業に頼るのではなく、個人が任意でするという意味だ。言うまでもなく年金の所管は厚生労働省で、もちろん報告書を取りまとめるにあたって、厚労省もオブザーバーとして関与していたが、影は薄い。企業年金については厚労省の部会で別途検討が進んでいる。
はめられた厚労省?
筆者は前述の「2000万円不足」が元々どこから出てきたのかを探った。
それは、4月21日の作業部会(第21回)に見て取られる。「2000万円不足」の根拠は、オブザーバーだった厚労省が提出した総務省家計調査(2017年)のデータがベースとなっている。
議事録によると、資料を説明した厚労省の課長は「現在、高齢夫婦無職世帯の実収入は20万9198円と家計支出26万3718万円との差は月5.5万円程度となっております。その高齢夫婦無職世帯の平均貯蓄額は、赤囲みの部分、2484万円となっております」と説明した。
さらに同課長は「今後、実収入の社会保障給付は低下することになることから、取り崩す金額が多くなり、さらに余命も伸びることで取り崩す期間も長くなるわけで、今からどう準備していくかが大事なことになります」と述べた。
一見すると、厚労省課長はごくごく当たり前のことを述べているだけで、悪意はなさそうだ。本人もまさかこのような事態になるかは想像もしていなかったであろう。