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「老後2000万円不足」の真犯人(上)

金融庁が金融機関を支援し、資産形成ビジネスに加担し、老後の不安を煽った

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

「大御所」が積極的メッセージ

 もちろん、作業部会のメンバーの中でも報告書の取りまとめに際して、金融庁が国民に対してメッセージを発することに対しては慎重な意見もあった。しかし、こうした行政側からの問題提起を受け、作業部会のメンバーの中でも国民に向けたメッセージを強く打ち出すべきとの意見で一致したのだ。

 例えば、長年金融審にかかわってきた池尾和人・立正大学経済学部教授は「(金融庁が)国民向けにパンフレットを作るのかということを考えているのなら、メッセージ性ははっきり出すべきじゃないかという気がしています」と述べ、口火を切った。

 また、厚労省の社会保障審議会のメンバーでもある駒村康平・慶應義塾大学経済学部教授は「月々の赤字額は5.5万円ではなく、団塊ジュニア世代には10万円くらいになってくるのではないか」と指摘。「今の高齢者も単に節約だけではなくて、ちゃんと将来の絵姿を見据えて運用も含めて資産の維持に努めていくべきだというメッセージを明瞭に伝えていただきたい」と援護した。

 そして、件の報告書が完成し、公表に至ったわけだ。筆者は「これまでの真実から国民の眼を背けさせて煙に巻くような、何を言いたいのかわからないあいまいな報告書よりははるかにましだ」とは思う。関係者の勇気に敬意を表したい。

拡大Thanwa photo/shutterstock.com

金融庁が金融ビジネスを支援

 確かに、報告書では、金融資産の保有状況で65歳時点の高齢世帯の貯蓄額の数字を示している。世帯主が65~69歳で2人以上の世帯の平均額は2252万円。単身世帯で1506万~1552万円だ。この額を必要に応じて取り崩すことになるので、直ちに2000万円が不足するわけでは決してない。

 にもかかわらず、報告書は「金融資産はさらに必要」と強調している。さすがにこれでは、金融庁が金融機関のビジネスを支援し、資産形成ビジネスに自ら加担し、国民の老後の不安を煽っているといわれても仕方あるまい。ある大手証券会社OBは「未熟な担当者が作った出来の悪い資料。もう金融庁は死んだといわれても仕方ない」という。

 さらに、報告書にはもう1つ見逃せない記述がある。高齢顧客保護のあり方についてである。

 この点、金融庁はこれまで75歳など一律の年齢制限といった業界団体の自主規制を尊重してきた。しかし、報告書では「高齢者の状況も様々で、商品のリスクや複雑さに応じてメリハリをつけていくべきである」など、業者寄りのスタンスに傾倒している。従来の一律の自主規制を静観してきた態度から一転、「本来は個々人に応じたきめ細かな対応が望ましい」という。

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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。著書に『点検ガバナンス大改革―年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値』(R&I編集部編共著、日本経済新聞出版社)などがある。17年7月退社。

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