「老後2000万円不足」の真犯人(下)
退職金も企業年金も揺らいでいる。「退職給付難民」の増加にどう向き合うのか
深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

lovelyday12/shutterstock.com
揺らぐ退職金と企業年金
退職給付制度を持つ企業の割合は1992年度には全体の92%に上ったが、2012年度には75.5%まで低下した。主に中小企業が運営していた税制適格年金の優遇措置がなくなることで、多くの企業が退職給付制度自体を廃止したためだ。
当初は終身雇用を保障していた日本企業だが、雇用される側が定年までの就業を望まず、中途離職者が急増した。派遣社員やアルバイトなど正社員を望まない若年層が増加したのも背景だ。
今や大学卒の新卒社員は3年で半数が離職するのが常識だが、短期間の就労を繰り返すと退職給付難民になり得るリスクは高まる。まとまった金額の退職金が受け取れないほか、十分な公的年金が得られなくなる可能性があるためだ。
どのような契約形態で就業するかは個人の選択の問題だが、正社員で厚生年金保険料をできる限り長い期間納めることが老後受け取る厚生年金を増やすことにつながる。
もっとも、退職給付制度が廃止されているのは、主に従業員規模の少ない中小・零細企業が中心で、企業の運営する退職給付は減少傾向にあるのが実態だ。大企業は労働組合が組織されている場合が多く、制度の廃止には反発が大きい。しかし、中小企業では経営者の意向で制度が廃止される場合も多い。
政府は2013年の企業年金改革でかつて企業年金の中核だった厚生年金基金を特例措置で解散できるようにしたため、多くが自主的に解散を選んだ。
退職金額はピークから4割減
大学卒の定年退職者の退職給付額は平均で1700万~2000万円程度で、ピーク時から3~4割減少した。1997年には3203万円あったが、年々減少し、2017年には1997万円となった。これは高齢者の貯蓄額に長期的には影響し得る。
正社員には多くの場合一定の退職給付が支払われるが、非正規労働者に退職金が支払われることはまれだ。払われるにしても正社員に比べて金額が少ない場合がほとんどだ。一般に非正規労働者は雇用期間が有限で、所得が不安定になりやすく、年金保険料が十分積み立てられず、老後の年金額も低額に陥りやすい。
旧民主党政権下で公的年金の受給資格は25年から10年に短縮されたことで、これまで年金の受給資格がない人に年金が支払われることになった点では一歩前進だが、保険料の納付期間が短いため、老後受け取る年金額も少なくなる低年金という新たな問題が生じつつある。

受給資格短縮で発生した低年金問題(厚生労働省年金制度基礎調査2017より)