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インバウンド狙いの地域観光は日本の魅力失わせる

「地域文化」より「日本文化」求める外国人で、日本観光は金太郎飴になってしまうのか

南雲朋美 地域ビジネスプロデューサー 慶應義塾大学・首都大学東京非常勤講師

 日本全国の地域が、労力をかけて「インバウンド」と言われる訪日外国人旅行客を獲得していっても、日本人が楽しめないようなコンテンツになってしまっては、何のための観光戦略かわかりません。佐賀県の「肥前吉田焼」の再生を例に、埋もれている地域の魅力の発掘や輝かせ方を考えて行きます。

朝日新聞 大阪・新世界 平成最後の日 拡大大勢の観光客でにぎわう大阪の繁華街「新世界」。バブル崩壊後、外国人観光客を呼び込もうとする「インバウンド」が積極に進められた=2019年4月30日午後4時58分、大阪市中央区、金居達朗撮影

まずは日本人が喜ぶサービスから

 訪日外国人旅行の伸び率はすさまじいものです。政府が推進するように、彼らをもっと取り込むことができれば、観光ビジネスに関わる世界はさぞかし潤うでしょう。しかし、日本の観光産業、特に地域観光においては、インバウンドをあまり当てにせずに、多言語対応や交通インフラの利用をわかりやすくするなどの基本的な整備にとどめ、まずは日本人が喜ぶサービス、日本人も満足できるサービスレベルやホスピタリティを充実することが先決だと思います。

 ここ数年、ローカル線の列車や路線バスを乗り継いで行くような地域を訪れても、外国人旅行客の姿を見かけることが増えてきました。日本政府観光局のまとめによると、訪日外国人旅行客数は、2008年が835万人、2018年が3120万人というように、この10年間で4倍近くに増えています。

南雲さん2拡大日本政府観光局の資料から引用

 一方、日本人の国内観光に目を向けてみると、2018年度は金額的には3%減で、人数的には13.2%減となっています。人数にすると、のべ約1億人減少になります。日本人の海外旅行客は同じ年で比較すると6%伸びています。日本人が国内旅行をやめて海外旅行に行っている、とは限りませんが、一瞬、そんな思いが頭をよぎりました。

「わかりやすい日本っぽい」ものばかりになってしまう

 外国人旅行客と日本人が楽しめる観光コンテンツは、同じであるとは限りません。彼らは「地域文化」を楽しむより「日本文化」を求める傾向にあります。もし、地域の観光コンテンツから、地域色がなくなって「わかりやすい日本っぽい」ものばかりになってしまったら、日本人は楽しめなくなってしまうでしょう。そうなると、日本の地域文化は発展どころか衰退し、日本人の国内旅行の需要自体も停滞してしまうのではないでしょうか。

 日本人が地域文化を楽しんで、国内旅行を満喫できるようになれば、インバウンド需要はおのずとついてきて、持続可能な観光経済の発展が成立すると私は考えます。

朝日新聞2018年5月3日拡大「コスプレの館」で着物姿になり、周囲を散策するタイからの観光客ら=千葉県栄町


筆者

南雲朋美

南雲朋美(なぐも・ともみ) 地域ビジネスプロデューサー 慶應義塾大学・首都大学東京非常勤講師

1969年、広島県生まれ。「ヒューレット・パッカード」の日本法人で業務企画とマーケティングに携わる。34歳で退社後、慶應義塾大学総合政策学部に入学し、在学中に書いた論文「10年後の日本の広告を考える」で電通広告論文賞を受賞。卒業後は星野リゾートで広報とブランディングを約8年間担う。2014年に退職後、地域ビジネスのプロデューサーとして、有田焼の窯元の経営再生やブランディング、肥前吉田焼の産地活性化に携わる。現在は滋賀県甲賀市の特区プロジェクト委員、星野リゾートの宿泊施設のコンセプト・メイキングを担うほか、慶應義塾大学で「パブリック・リレーションズ戦略」、首都大学東京で「コンセプト・メイキング」を教える。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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