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0円音楽時代に未来はあるのか

世界の音楽収入の半分がストリーミング。定額で聴き放題に対抗する手段はあるのか?

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

ストリーミングはプロモーションと割り切る時代に

――音楽の作り手側だった阿部さんからすると、アーティスト側にとってこの変化はどう受け止められているのでしょうか。

 私は以前、レコード会社でディレクターをしていましたが、アーティストはレコード会社以上に大変だと思います。レコード会社には、色々なアーティストが所属していて、過去のヒット曲を使って様々なビジネスを展開することができます。しかし、アーティストは自分の曲しかありません。

 2000年前後までは、邦楽では宇多田ヒカルさん、浜崎あゆみさんなどの多くのアーティスト、洋楽ではマライア・キャリーやビートルズのベスト盤、さらに私も担当したヒーリング・ミュージックのコンピレーション・アルバム「feel」もミリオンセラーになり、みんながCD1枚ずつ買って100万枚を超えていました。今でもミリオンセラーの作品はありますが、その数はかなり減ってしまいました。

 今はストリーミング配信時代で、1曲単位になり、アルバム単位で購入する時代ではなくなってきているので、アーティストは経済的にすごく大変だと思います。

 アーティストが産みの苦しみで1曲1曲を作っているのに、聴く側はサブスクリプションで聴き放題になっているので、雀の涙ぐらいしか収入が入ってこないアーティストもいます。何十万回、何百万回の再生回数があるようなアーティストでないと収入が期待できません。

阿部さん1拡大東郷かおる子さんの著作「クイーンと過ごした輝ける日々」=シンコーミュージック・エンタテイメント提供
――欧米での動きはどうだったのでしょうか。

 欧米のアーティストは、日本より早い時期から危機感を抱いていました。2008~2009年ごろに出てきたのが、限定販売のアナログ盤です。徐々に様々なレーベルが出すようになりました。ストリーミングやユーチューブが全盛な時代は、それをプロモーションとして割り切るというビジネスのスタイルです。

 2010年冬、ドイツでヘヴィ・メタルのレーベル関係者と会ったとき、突然、大きい箱を持って来ました。結構マニアックなバンドでしたが、箱には7インチレコードが10枚ぐらい入っていました。「それは何だ?」と聞くと、「CDよりも、もっと手に持っていたいと思わせるアイテムをサイトやライヴ会場で買ってもらう時代。欧米にはCDショップが無くなりつつあるのも要因だ」と。

 CDが売れるのは日本ぐらい。欧米では、プロモーションツールとしてストリーミングを使い、ファンになってもらって限定販売の「ボックスセット」をレーベルのサイトから買ってもらうビジネスや、ダウンロードした人がどこに住むどういう人かという情報をマーケティングとして利用し、利用者の暮らす地域の近くに行く好みのバンドのライヴ情報やグッズ情報を流したりしていました。アナログ盤やライヴ会場でのグッズ販売を上手く新しいビジネス・ツールに活用していて、こういった流れが新しいレコード会社やレーベルが行く方向だと思いました。


筆者

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき けんいち) 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで医療や暮らしを中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当、オピニオン編集部「論座」編集を担当を経て、2020年4月からメディアデザインセンターのバーティカルメディア・エディター、2022年4月からweb「なかまぁる」編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)。 withnewsにも執筆中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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