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お粗末すぎる年金広報~知られざる厚労省動画

広報内容の改善は進むも周知は不十分。意図的に隠しているのなら国家的な年金詐欺だ

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

 老後2000万円不足問題で、国民の年金に対する関心がこれまでにないくらい高まっている。しかし、厚生労働省などのこれまでやってきた国民向けの年金広報や年金教育のお粗末な実態はあまりに知られていない。

機能不全の年金広報

拡大国民年金パンフレット(厚労省のホームページより)
 厚生労働省のメディア向けの広報はしっかりしている。

 筆者は新聞やテレビ向けの厚生労働記者会に所属していた。専門紙向けには別途、労政記者クラブが設けられている。広報室長以下、スタッフも張り付けて、迅速に丁寧な広報活動をしているようにみえる。厚生労働行政の結果を発信するメディアの影響力を重視しているためだろう。実際年金のみならず、医療、介護、労働などのテーマで1日に何回も会見やブリーフがスムーズに開かれている。過去に報道によって振り回された経験が生きている。

 問題はほとんど誰もみない国民向けの年金広報だ。

 公的年金を所管する厚生労働省にこのようなサイトがある。『【国民年金】パンフレットと動画のページ』がそれだ。いろいろな年金に関するパンフレットとともに、年金に関する動画がアップされている。十分な予算措置がないので、印刷物を大々的に配布するような古典的な方法より、予算のかからない方法がとられてきた経緯がある。

 これこそが政府がこれまで年金不信、厚労省不信、年金機構不信を招いた元凶ではないか。国民に年金について十分な理解が浸透していないのだ。

 例えば、「国民年金ってホントに必要なの!講座」の動画を見て見よう。同動画は約10分のアニメーションで、公的年金制度を昔話「桃太郎」を使って説明を試みる。

 動画は「世の中は将来への不安という鬼が、人々を怖がらせていた」と始まる。青年桃太郎がきびだんごをもって、鬼退治にいくというストーリーだ。桃太郎は不安に思う犬、猿、キジにきびだんごを渡して、仲間にすることに成功し、動物たちと鬼退治に挑む。「そう、これこそが年金制度なのです。桃太郎ときびだんごを信頼して、将来の不安をやっつけましょう!鬼退治をしましょう」と呼びかける。ここまで4分程度。筆者の理解が悪いのか、このロジックがいまいちすっと頭に入らないが、導入部分としては不適切とも言い切れない。


筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。著書に『点検ガバナンス大改革―年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値』(R&I編集部編共著、日本経済新聞出版社)などがある。17年7月退社。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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