
2000年代、インターネットで求人を検索する若者たち
6月11日に政府が公表した経済財政諮問会議の「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)2019」原案に、「ロスジェネ」とも呼ばれる就職氷河期世代の就業支援策が盛り込まれた。人手不足業種などのニーズなどを踏まえた人材育成プログラムや民間ノウハウを活用した職業訓練受講給付金の整備、人材派遣会社など民間への成果に連動した職業訓練の委託などが主な内容だ。正規雇用を希望する「ロスジェネ」には朗報とも見える政策だ。だが、これらは、不安定で劣悪な働かせ方に悩んできた「ロスジェネ」を次の劣悪雇用という二次被害に落とし込む危うさをもはらんでいる。
「人手不足業界への誘導」で大丈夫か
まず気になるのは、人手不足業種等の企業のニーズを踏まえた人材育成プログラムについてだ。
人手不足の業界を焦点に転職支援をすること自体は、就職に結びつきやすく、合理的な政策だ。デンマークでも、2008年のリーマンショック後の大量解雇の際、労組とハローワークが連携し、人手不足の業界の仕事から希望のものを選ばせ、転職につなげている。当時、私が取材した同国の大手メーカーでは、解雇対象となった工員たちの多くが、人手不足のトラック運転手を希望した。そこで、会社の構内で大型車の免許を取るための訓練を無料で行い、解雇の日までにほぼ全員を転職させて仕事に空白ができない工夫をしていた。職歴に空白ができると、再び仕事に戻ることが難しくなるという配慮からだ。
ただ、デンマークの場合は、派遣などの不安定な短期雇用の非正社員の比率がきわめて低く、正社員の労働条件も安定しており、転職すればそれなりの安心した生活が送れる条件があった。だが、今の日本社会で「人手不足」とされる業界には、経済的自立が難しい低賃金や、パワハラの横行などで働き手が定着できない構造を持っていることが少なくない。人が集まらないような待遇にこそ問題があるということだ。
たとえば、介護や保育は社会のニーズが大きく、高いスキルが必要な仕事でやりがいも大きい業界だ。にもかかわらず、低待遇がなかなか改善されず、働き手が定着しにくいことが問題になっている。
運輸業界や建設業界でも、人手不足への反省から働き方を改善の試みがさまざまに報じられてはいるものの、過酷な労働による過労死などがしばしば報道されてきた。「日本流通新聞」(2018年10月15日付)も、「一般論」としつつ、トラック運送事業での労働時間が全職業平均より約2割長いにもかかわらず、年間賃金は約1~2割低く、それが人手不足の深刻化を招いたと指摘している。