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[46]「ロスジェネ支援策」、二次被害の懸念

雇用劣化に疲れた人々を待つ劣化雇用?

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

政府の政策が招いた劣化

 その背景にあるのは、政府の政策だ。

 介護や保育について言えば、「夫に養われる女性」などを前提に低待遇を維持する政府の制度設計が続いてきた。最近では、政府が人件費アップのための助成金を出しているが、同時に、株式会社化路線の中でそれらが利益や投資に回されがちな事態が起きている。たとえば、2016年10月22日付「毎日新聞」は同社の調査から、社会福祉法人の経営する保育所の運営費全体に占める人件費の割合が平均69.2%なのに対し、株式会社の保育所は平均49.2%だったと報じている。

 また、運輸業界では、1990年の物流2法による規制緩和以降、トラック運送事業者が過当競争状態に置かれ、ドライバーの長時間労働・低賃金が続いた結果、若手が集まらない業界になったといわれている。

 建設業界では、東日本大震災の復興という課題が解決しきっていない中で東京五輪が誘致され、五輪までに間に合わせるという厳しい日程の下での建設現場での過酷労働が問題化している。以前からの多重下請け構造の中で危険な作業に監視が行き届かないこともあり、今年2月の国際建設林業労働組合連盟(BWI)の調査がまとめた報告書「東京オリンピック“闇の側面”」では、「頭上をコンクリートが揺れている状態で危険を感じた」「月に28日間連続で働いている例がある」など、極端な長時間労働や危険事例が明るみに出されている。

 こうした状態を放置したままの「就職支援」では、粗悪な雇用を渡り歩いて苦しんできた「ロスジェネ」にさらなる苦痛を与えかねない。

 「民間ノウハウを活用した職業訓練受講給付金の整備」「人材派遣会社など民間への成果に連動した職業訓練の委託」も危うい。

 非正社員の不安定さが知れ渡るにつれ、「正社員」でないと若者は集まらなくなった。今回の支援策が「正規雇用希望者の正規化」を掲げているのも、そうした状況を配慮してのことだろう。だが、そんな中で、劣悪な労働条件でも「正社員」を標榜して人集めを行う企業が目立っている。非正規並みの低待遇と正規並みの長時間労働・高拘束を兼ね備えた「名ばかり正社員」だ。人材派遣会社などの民間人材業者に委託し、就職に成功したら助成補助金を支給するなどの手法は、現政権がこれまでも推進してきたものだが、「成果」を上げるため、こうした「名ばかり正社員」でも、とにかく就職させるという事例はしばしば聞く。

 また、派遣会社などの民間の職業訓練は、まとまった設備投資がさほど必要ない初歩的なパソコン教育なども多い。これでは通常の正社員就職の決め手にはなりにくいが、そんな中で就職先が見つからないと、「派遣の仕事はどうか」と誘い、「派遣会社の正社員」社員として派遣の形で就職させることで「成果」にカウントする例もある。やっと正社員になれたと思ったら不安定な自立できない待遇の仕事で心が折れ、「もう就職活動などしたくない」という当事者の声も聞く。

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学名誉教授

和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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