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安倍外交の真価が問われるG20大阪サミット

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

G20の会場で、警備する警察官に訓示する菅義偉官房長官=2019年6月22日、大阪市住之江区

トップ外交の場と化すG20

 G20首脳会議、いわゆるサミットが6月28~29日に大阪で開催される。今年の議長国を任された日本では、既に5月の農業大臣会合(新潟)、6月に入り財務大臣・中央銀行総裁会議(福岡)、貿易・デジタル経済大臣会合(茨城)、持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合(長野)が関連会合として開催されており、いよいよ真打ちの登場となる。なお、以降も9月に労働雇用大臣会合(愛媛)、10月には保健大臣会合(岡山)、観光大臣会合(北海道)、11月に外務大臣会合(愛知)と年間を通じて関連会合が予定されている。20カ国の要人や関係者が訪れる各地では、宿泊や飲食、移動のための交通、警備、事務機器などの分野を中心に経済効果も期待されている。その規模は、大阪サミットで365億円という試算もあり、一時的とはいえ経済活性化の一助となろう。

 話を戻すと、そもそもG20サミットは、リーマン・ショックによる世界的な経済混乱から脱するため、2008年11月に従来のG20財務大臣・中央銀行総裁会議を格上げし開催されたのが始まりである。以降、専ら金融・経済の世界共通課題について、各国首脳が集まって議論する場と位置付けられ、2010年までは年2回、2011年以降は年1回開催されている。メンバーはG7や韓国、豪州といった先進国にBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの主要新興国を加えた20の国・地域である(詳しくは、外務省のホームページなどを参照されたい)。

 ここ数年の中心議題は、リーマン・ショックや欧州債務問題を乗り越えたこともあって、危機克服から経済成長へ、その実現のための経済政策や通貨政策の在り方へ変化している。前回のブエノスアイレス(2018年11月)では、保護主義を意識したとみられる「貿易上の問題」やWTO改革といった参加国間で主張が対立するテーマのほか、気候変動といった環境問題、先端分野であるデジタル経済なども議論された。

 ただ、20カ国も参加するとなると、緊急性が高くかつ各国共通の課題でない限り、コンセンサスを得ることは難しい。そのため、最近の議論は解決策の合意には至らず、各国の問題意識を共有するにとどまることが多いように見える。そうしたこともあって、最近のG20サミットは、専らトップ外交の場としての活用が目立つ。

最大の注目は米中首脳会談

 今回の大阪サミットでも、注目の首脳会談が幾つか予定されている。その中で最も衆目を集めているのは、トランプ大統領と習近平国家主席の会談である。5月5日、トランプ大統領のツイッターによって米中通商協議が中断、大阪サミットでの米中首脳会談に協議再開のきっかけとしての期待が集まっていた。ところが、会談実現に向けた調整は難航、6月18日の電話会談において、ようやく実施が決まった。

 その意味では、開催が実現しただけでも十分に前進ではあるが、やはり会談の成否も気になるところである。それを占うためには、両者の主張を確認しておく必要があろう。まず、米国であるが、5月に米中の通商協議が中断した時点では、中国が既に合意済みのデジタル分野や技術移転強要に関する法整備、国有企業への補助金について再交渉を求めたので第3弾の追加関税引き上げを決めた、と主張している。一方、中国は6月2日、こうした米国の主張を完全に否定したうえで、貿易協議に関する白書を公表、合意のための条件として、①全ての追加関税の撤廃、②現実的な米国からの輸入規模、③合意文章のバランス改善、を提示した。

 これら中国の示す条件に対して、①追加関税の撤廃については、米国も協議が合意に至れば異論がないとしているようである。ただ、中国が合意後の即時撤廃を求めていることに対して、米国は中国の対応状況を見極めつつ段階的な撤廃を望んでいる点が異なっている。

 次の②現実的な輸入規模とは、中国の米国からの輸入額のことを指すとみられる。中国は、昨年12月からの通商協議の過程で、米国からの輸入額を6年間で1兆ドル積み増すことを約束したと報じられている。これは、年平均1,700億ドル程度であり、2018年で4,200億程度だった米国の対中貿易赤字の約4割にも相当する。米国は、客観的に見て十分な規模と思われるこの提案をいったんは受け入れたものの、最近になって積み増しを要求した模様である。それが事実であれば、合意内容の再交渉を求めたのは、むしろ米国ということになるが、いずれにしても、中国は現実的な額を望んでいる。

 ③合意文章のバランス、という言葉が意味するところは、

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