財政赤字を恐れず、通貨発行益を国民生活の改善のために使え
2019年06月27日
MMT(近代貨幣理論)への風当たりが強い。MMTというのは、財政均衡の目途を基礎的財政収支に置くのではなく、上限となるインフレ率(例えば3%)になるまでは、財政赤字を許容するという考え方だ。もちろん、そこで生まれた赤字国債は、中央銀行が買い入れる。中央銀行は政府の子会社だから、購入と同時に、借金は事実上消えるのだ。
そうしたことをすると、インフレ率が高まり、国債価格が下落するというのが、経済学の常識だが、その程度は思ったよりもずっと低いというのが、アベノミクス下での日本経済で判明したことだった。
第2次安倍政権発足以降、日銀は368兆円も国債保有を増やした。それによって、確かに深刻なデフレからの脱却には成功したが、いまだに物価上昇率は1%未満であり、目標の2%に遠く及んでいない。国債に至っては、マイナス金利に陥っている。つまり、財政赤字を増やして、それを日銀が買い取る金融緩和を継続できる余地は、まだまだ大きいということになる。
しかし、MMTに関しては、評論家たちだけでなく、安倍総理や日銀の黒田総裁も、否定的だ。もしかすると、MMTが世間になかなか受け入れられないのは、「山本太郎のような胡散臭い政治家が主張しているから」というものがあるのかもしれない。山本太郎氏は、確かに議論やパフォーマンスが極端に走る傾向があって、それで顰蹙を買っているのだが、言っていることの方向性自体は、間違っていないことが多い。MMTも、まさにそうだ。
私自身は、いまのMMT批判をみていて、「また同じことが起きている」と感じている。いまから19年前に私は『日銀不況』という書籍を書いて、インフレターゲット付きの量的金融緩和政策の導入を主張した。そのとき、私が置かれた立場は、まさにいまの山本太郎氏と同じだった。経済学者たちから総スカンを食い、日銀は出入り禁止になった。そして、私への批判は、まだ紙媒体だった本誌でも行われた。
2002年3月号の月刊『論座』に、木村剛氏が私を批判する論文を掲載したのだ。「見当違いの陰謀史観にはあきれるばかり 森永卓郎さん、政策を語りなさい 徹底反論 実現可能性を欠くインフレターゲッティング論はその場凌ぎの『経済評論』にすぎない」というのが木村論文のタイトルだった。
私は木村氏と直接対決をさせて欲しいと論座の編集部に申し入れた。しかし、それだと延々と論争が続くことになってしまうという編集部の判断で、翌月号にインタビュー形式で、私の反論が掲載された。「「ハゲタカ」論争 木村剛さん、不安を煽ってはいけない 再反論 デフレ阻止宣言と適切な資金供給管理でインフレターゲットは実現できる」というのがそのタイトルだ。当時の状況をご理解いただくために、以下にその一部を再掲する。
(以下引用)
森永 私がもしインフレターゲットをやるなら、定量的に目標を示して、期限を切って、しかも失敗したときの責任の取り方を明確にする。この三つを同時にやらなきゃいけない。
カルロス・ゴーンは
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