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トランプは自動車関税を上げられない

対メキシコ交渉や自動車関税引き上げ問題は、対中貿易戦争とは違う

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大ホワイトハウスで会談するトランプ米大統領(左)と中国の劉鶴副首相=2019年2月22日、ワシントン

中国には党派を超えた厳しい見方

 まず、中国に対するアメリカの対応についてみよう。

 中国に対して厳しい見方をしているのはトランプだけではない。他の問題についてはことごとくトランプと対立する民主党の院内総務のチャック・シューマーも、こと中国問題に対してはトランプに妥協するなと強く支援している。

 中国がアメリカの技術を盗んで覇権国家となろうとしているという主張には、党派を超えた支持がある。政権内部にも、通商製造業政策局長のナバロや通商代表のライトハイザーといった対中強硬派がいる。

 中国に関税引き上げという貿易戦争を仕掛けたのはトランプだが、これを契機として噴出したワシントンの反中国感情は、対中貿易赤字だけを問題視するトランプよりもはるかに根強いものがある。ペンス副大統領は、G20が開催される6月28日の3日前に中国に対して厳しい演説を行う予定だったが、トランプと習近平の会談がセットされたことから、これは中止された。

 ある専門家は、戦術(タクティクス)ではトランプが最もドラスティックだが、戦略(ストラテジー)ではトランプは最も柔軟だという表現を使った。中国がアメリカ産農産物の買い付け拡大を提案すれば、トランプは貿易赤字が改善するとして矛を収めるかもしれない。

 しかし、彼以外は、知的財産権の保護、産業補助金の削減、国有企業の改革など、構造的な問題まで解決すると約束しない限り、中国に対して厳しい対応をとり続けるだろう。他方で、これは中国共産党の体制的な問題とかかわるだけに、中国が譲歩するとは思えない。一部で交渉に進展があったとしても、関税の掛け合いが全くなくなることはないだろう。

 もちろん全面的に中国からの輸入品に関税をかければ消費者の負担は増加するが、アップルが問題提起をしているだけで、大きな反対とはなっていない。

「メキシコ」「自動車」と「中国」の違い

 では、メキシコへの関税賦課や自動車関税の引き上げについては、どうだろうか?

 まず、アメリカの貿易赤字を重視するトランプにとって、赤字相手上位国の中国、メキシコ、日本、ドイツは、程度の差こそあれ、どれもアメリカの職を不当に奪ってきた憎むべき国であり、違いはない。

 彼からすると、メキシコは貿易赤字だけでなく移民の流入によってもアメリカの職を奪っている。日本には80年代から90年代にかけて自動車を大量に輸出され、大幅な貿易赤字を被ったという被害者意識がある。ドイツにいたっては、トランプはもっと屈折した感情を持っている。彼が小さいころ、ニューヨークのマンハッタン地区の裕福な住民たちはベンツを運転し、彼が育った隣のクイーンズ地区の住民は、これを横目で見ながらフォードやGMを運転していたのである。

 しかし、トランプ以外の人にとって、メキシコや自動車関税の対象となる日本やドイツは、中国と異なり、アメリカの同盟国である。メキシコの場合には、対中強硬派の代表であるライトハイザーやトランプの娘婿で上級顧問のクシュナーが、アメリカの最大の貿易相手の一つであるメキシコに対して関税を引き上げたら、アメリカ、メキシコ両国に被害が及ぶと主張して反対したとウォール・ストリート・ジャーナル(6月11日付け)は伝えている。中国も同じく重要な貿易相手なのに、ライトハイザーたちから、このような反対は出ない。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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