2004年の年金改革で打てる手だてはほぼ打った
2019年07月03日
金融庁の報告書をめぐり、今月の参院選を控え日本の公的年金制度が揺れている。参院選後どのような年金改革が出てくるのか。日本の公的年金制度にかかわった厚生労働省OBへの取材を通じ、彼らの本音を探りたい。
現役の厚労省年金局は参院選を控え、政府・与党に忖度し、だんまりを決め込んでいる。そこで、今は厚労省から離れ、2004年の年金改革にかかわった厚労省OBらに話を聞いた。
彼らは一様に冷静で「少子高齢化で公的年金が将来細るのはわかっていた。だからこそ負担と給付について既に手は打たれており、抜本的な年金改革は不要。2004年の年金改革で保険料の上限を定めたことで将来年金が減るのは決まっていた」と明かした。
別の年金局OBは「2004年の年金改革で給付の適正化など打てる手だてはほぼ打った」と淡々と話した。彼は「もはや公的年金制度がマクロで破綻することはない」と述べ、「ただ、給付水準は少しずつ引き下げられていく」と続けた。一方、この抜本的な年金改革がこれまで国民に十分伝わっていなかったのは、「努力不足であった」と自戒した。
もちろん、彼らは年金改革が終わったといっているわけではない。「今後人口減少社会でさらなる年金改革をしていくことは必要だ」という。
ただ、現行制度の仕組みを変えて、全額税負担の最低補償年金を作るとか、マクロ経済スライドを廃止するとか、今さら積立方式に移行するなど、現在の公的年金制度の仕組みを抜本的に変えることには皆強く反対している。
国内の一部では政治主導で年金、雇用保険、生活保護といった社会保障を再編し、最低限の所得を保障するベーシック・インカム制度を新たに創設する理念も台頭しつつある。マイナンバー制度の拡充などで理論的には導入環境も整いつつある。
しかし、現実的には相当ハードルが高い。
これまでの制度を根本から変えるには、議論にも相当の労力が必要であるし、制度を変えるそれまでの移行措置などを考えれば、莫大なコストが発生する。さらに世代間の不公平をさらに助長しかねない。
であれば、与野党が現行制度をベースに制度改善に知恵を出し合い、議論して結論を出すのが合理的であろう。
選挙のために他方の粗を探して悪口を言い合うのは不毛である。与党も「財源をどうするのか」と取り合わず、一方的に排除するのも大人げない。ほとんど全ての国民に影響する年金改革は、与野党を超えて協議で決めるべきだ。それを与党側から持ち掛ける余裕はないのだろうか。
現実の参院選を見てみると、参院選を控える野党は年金問題について争点化しようとしている。対案とまでは言えないが、日本共産党などが厚生年金保険料の負担見直しなど現行の公的年金の改善に向け一応のアイデアは出している。
しかし、与党側はそこを批判し返さない。本音は触れてほしくないのだ。
首相は、第1次安倍内閣が旧社会保険庁のずさんな管理で明らかになった年金記録問題が災いして参院選に大敗した教訓から、国政選挙の争点に年金問題を封印したのだ。今回は年金をスルーし、消費増税や憲法改正を問う選挙にすり替えようとする。しかし、一時的であるにせよ、年金問題から目を背けることは国民を裏切ることにならないか。
もっとも、厚労省や与党の裏切りは今に始まったことではない。
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