メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

安倍首相が掲げる「年金増額」の真相

参院選が終われば「年金改革」はこうして進められる~消費税再増税の影

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

在職老齢年金の廃止はダミー

 在職老齢年金の廃止は、表向きは高齢者の就労を促し、支援するのが目的だ。しかし、本丸は厚生年金の被保険者のさらなる適用拡大にこそあり、在職老齢年金の廃止はダミーに過ぎない。在職老齢年金自体は古くから厚労省が導入した年金を減額する仕組みだ。

 自民党が掲げる「勤労者皆社会保険制度」はこのことを指す。首相のいう「政策次第で年金を増額できる」とは、このことをほのめかしている。文字通り条件付きの年金増額だ。

 非正規労働者など厚生年金の一部について、現時点で適用されていない人を厚生年金の加入者にすることで、年金の担い手(支え手)を増やす処方箋だ。つまり、保険料を払う人を増やし、今まで払っていない人に年金を払うということだ。

 政府の経済財政と構造改革に関する基本方針(骨太2019)では、「勤労者が広く被用者保険でカバーされる勤労者皆社会保険制度の実現を目指して検討を行う」と明記され、もはや勤労者皆社会保険はほぼ既定路線だ。

 参院選の結果は本稿執筆時点でまだ見通せないが、与党が勝利すれば、政策は実現に向けて粛々と動き出す。

より多く払うから年金は増えるだけ

 確かに、首相の言うように、在職老齢年金の廃止で高齢者の収入は今より増えるが、年金制度マクロでみると、それ以上に厚生年金の適用拡大で年金保険料が多く入ってくるため、在職老齢年金を廃止して、現行制度で停止になる年金を支払ったとしても、厚生年金の適用拡大で得られる保険料の増加分でペイするのだ。

 年金受給者ミクロにとっても在職老齢年金の廃止で年金収入が増えるうえ、厚生年金の適用拡大で保険料拠出を増やすことで自らの年金額を増やすこともでき、一定の所得代替率の上昇が見込めるはずである。

 一方、年金局にとっても2004年のマクロ経済スライドの導入で年金額が減額されることになって以来、将来の年金給付を改善する約束も果たせて一石二鳥なのだ。

 しかし、今後の年金改革はこれらの組み合わせ以外はありえない。厚生年金の適用拡大をしないで在職老齢年金を廃止すれば、年金給付だけが増えてしまうからだ。

 既に布石は打たれている。2014年の財政検証のオプション試算でも一定の賃金収入(月額5.8万円以上)がある全ての被用者(1200万人)への適用拡大が2024年4月から適用された場合について試算している。この結果、学生や雇用期間が1年未満の人などにも厚生年金が適用されるため、間接的には国民年金の納付率上昇の効果もある。

厚生年金の適用拡大どこまで

 より年金財政について効果があるのが、既に厚生年金に加入している人の加入期間の拡大である。

 現行制度は20歳に加入し、40年間保険料を拠出する40年拠出が前提だが、これを65~70歳までの45~50年間拠出と加入できる期間を延ばすのだ。

 例えば、2014年のオプション試算では、高齢期の保険料拠出をより年金額に反映する仕組みとした場合なども既に試算している。拠出期間の延長に合わせて基礎年金を増額することで、マクロ経済スライド適用後の所得代替率は6ポイント以上上昇する。

 また、厚生年金に45年間加入し65歳で退職した人が繰り下げ受給を選択した場合、マクロ経済スライド適用後の所得代替率は57.6%だが、50年間加入し70歳で受給開始した場合、所得代替率は最大28.6ポイント上昇するなど絶大な効果が示されている。

 ちなみに年金受給者が何歳で年金を受け取ろうが年金財政には関係がない。既に65歳より先に年金をもらう場合の割引率、年金を65歳以降に繰り延べる加算率が設定されているからだ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。著書に『点検ガバナンス大改革―年金・機関投資家が問う、ニッポンの企業価値』(R&I編集部編共著、日本経済新聞出版社)などがある。17年7月退社。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

深沢道広の記事

もっと見る