
G20サミットで行われたデジタル経済に関する首脳特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月28日、大阪市住之江区
米国の雇用を奪う許せない相手
6月29日の米中首脳会談で、アメリカは中国に対して発動の用意をしていた追加関税を延期する代わりに、貿易協議を再開することで合意した。
しかし、これで両国が貿易戦争を終わらせることは可能なのだろうか?
アメリカには、対中貿易赤字縮小を優先するトランプの主張と、中国がアメリカの技術を盗んで覇権国家となることを防ぐべきだという対中強硬派の主張がある。対中強硬派は共和党だけではなく民主党にも超党派で存在する。
上の図は2000年以降のアメリカの対中、対日の貿易赤字の推移を示している。
2000年の時点では対中、対日の貿易赤字はほぼ同じ水準である。しかし、それ以降対日貿易赤字がやや減少しているのに対し、対中貿易赤字は5倍に増えている。
昨年トランプは中国に対して関税を引き上げたが、中国の対米輸出はかえって増え、アメリカの対中輸出は大幅に減少した結果、対中貿易赤字はむしろ増加した。貿易の黒字は良くて赤字は悪いという考えに囚われているトランプにとって、中国は貿易によってアメリカの雇用を奪っている許せない相手である。
トランプが矛を収めたとしても
アメリカの貿易赤字は、生産している以上に消費しているというアメリカ自身のマクロ経済的な事情から発生しているので、この事情自体を変更しない限り、それはなくならない。ただし、中国がアメリカ産農産物の買い付け拡大を提案すれば、トランプは対中貿易赤字が改善するとして矛を収めるかもしれない。
しかし、彼以外の対中強硬派は、知的財産権の保護、アメリカ企業への強制技術移転要求の禁止、産業補助金の削減、国有企業の改革など、構造的な問題や安全保障上の観点を重視する。
これは中国共産党の体制的な問題とかかわるだけに、中国は簡単に譲歩できない。
アメリカと交渉していた劉鶴副首相はこれらについて法改正を約束したが、中国共産党保守派から猛烈な反発を受けて約束を撤回したため、アメリカは激怒し、2019年5月の米中閣僚協議は決裂したと言われている。越えがたい谷が間に横たわっていて、双方が納得する問題の解決は困難である。
事実、米中首脳会談終了後トランプがファーウェイに対する禁輸を緩和すると発表したことに対して、ファーウェイを安全保障上のリスクと見るアメリカの連邦議会では、超党派で強い反発が生じた。このため、クドロー国家経済会議委員長は、ファーウェイを禁輸リストに残し続けるとし、幅広く入手可能な汎用品に限り輸出ができるようにすると釈明することになった。
習金平に要求されて深く考えもしないで安易に回答したトランプに、議会から巻き返しが行われた形となった。対中強硬派はトランプが簡単に妥協することを許さない。