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片山さつき大臣が持ち込んだ、とある規制緩和の話

小泉政権の全盛期は今や昔。安倍政権で進む規制改革推進会議の小粒化・軽量化

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

衆院予算委で答弁する片山さつき大臣=2019年2月21日

 安倍晋三首相は6月6日、政府の規制改革推進会議から90ページ余の大部の規制緩和に関する答申を受け取り、「地方創生の観点から地銀の出資規制の見直しや畜舎のコスト削減を図るための規制改革など大胆な提言を頂いた」と持ち上げた。実はこの「地銀の出資規制見直し」は、所管する片山さつき内閣府特命担当大臣の〝持ち込み〟案件だった。

 小泉政権時代には政官が結びついた強固な規制を緩和する役割を担った規制改革推進会議(当時の名称は総合規制改革会議)だが、安倍政権の下で目玉施策の小粒化・軽量化が進んでいることは否めない。

トップダウンの「地銀の出資規制の見直し」

 規制改革推進会議は「必要性を失った規制には真正面から挑戦して風穴を開ける」ことを役割とし、農林、水産、投資など6つのワーキング・グループを設けて約1年かけて今回の答申(第5次答申)をまとめた。副業・兼業を促進するためのルールの明確化や各種国家資格の旧姓使用の範囲拡大、「パソコン1人1台」など小中高校におけるデジタル技術の活用といった多岐にわたる内容が提言され、担当の片山さつき大臣は6月7日の記者会見で「きわめて画期的、意欲的な内容」と自賛した。

 この中で安倍首相、片山大臣がともに挨拶や記者会見で「大胆な提言」の例として挙げた項目の一つが、「地銀の出資規制の見直し」だった。

 銀行の事業会社への出資は戦後、独占禁止法と銀行法の2つの側面から厳しく規制されてきた。

 銀行が過度な支配力を有して公正な競争が損なわれる懸念(独禁法)と、出資先の事業会社の経営悪化リスクが銀行の経営に伝播することを遮断する目的(銀行法)から、銀行には原則として事業会社の株式の5%までしか保有できない「5%ルール」がある。

 これを地域の企業の事業再生案件や事業承継案件、地域活性化案件といった事例に対しては、例外として地方銀行に5%ルールを撤廃するという内容である。

 全国地方銀行協会が2月13日に規制改革推進会議に要望を出して緩和が検討されることになったと表向きは理解されているが、金融界では「片山大臣の方からトップダウンで降りてきた」と言われている。

 入手した資料によると、規制改革推進会議第3期後期の重点事項案は一時、20項目だったが、そこに後から「地方創生の観点から地銀の出資規制の見直し」が付け加えられて、21項目になっているのだ。

規制改革推進会議で、大田弘子議長(左)から答申を受け取る安倍晋三首相=2019年6月6日、首相官邸

「大臣から相談を受けたのはこの1件だけ」

 地銀の出資規制の見直しが規制改革推進会議の事務局(内閣府)で具体的に検討され始めたのは、地銀協が要望書を提出する1カ月前の今年1月初めごろだった。

 担当の窪田修審議官は規制改革推進会議の大田弘子議長と相談したうえで、金融庁の岡田大信用制度参事官らに「片山大臣との関係もある。どこかで銀行からの要望を聞くという形でスタートさせたい」と内閣府側の意向を伝えている。

 地銀協が要望を提出する前に内閣府の担当官僚が動き出し、金融庁や公正取引委員会に規制緩和の根回しを始めているのだ。窪田氏の部下である長瀬正明参事官は、公取委との打ち合わせで「本件は大臣持ち込み案件という位置づけである。公取委としてもそういう位置づけでご審議に願いたい」と要請している。依頼を受けた公取委側も「長瀬さんから『大臣が関心を持っている案件ですから』と聞いた」と裏付ける。

 地銀協は例年9月に行われる規制緩和の集中受付にあわせて要望書を提出するのを常としてきたが、「今回はイレギュラーでした。1月に入ってから緩和しようということになりました」と地銀協関係者。大田議長も「片山大臣から相談があり、地銀協からホットラインに出してもらうことにしました」と認める。

 ホットラインとは常時受け付けている規制緩和要望の「目安箱」みたいなものだ。大臣自ら規制改革推進会議に案件を持ち込み、内閣府の事務方が大臣の意向を忖度して所管省庁に根回しし、そのうえで「目安箱」に放り込むよう業界を誘導する――。

 まるで将軍が目安箱に直訴する内容を指導するよう見える。何やら自作自演めく規制緩和要望である。

 3年間議長職を務める大田氏にとっても、大臣持ち込み案件は珍しいことだったようで、6月6日の記者会見で「私が大臣から相談を受けたのはこの1件だけです」と答えている。

 このときの記者会見は異例の展開をたどり、元経産官僚の原英史委員が突然、途中で割って入って来て、「大臣だと問題提起できないということはありえない」と言い出し、記者会見の場なのにもかかわらず「質問自体に意味がない」とエキサイトしてしまった。

 会見後のぶら下がり取材で「記者会見の質疑は自由なはずではないですか」と原氏をたしなめると、彼は「質問すべきじゃない」「質問すること自体、意味がない」と人目をはばからずに激高した。ちなみに原氏は、地銀の出資規制の見直しを検討した投資等ワーキング・グループの座長だった。

記者会見で質問に答える自民党の二階俊博幹事長=2019年4月9日

紀陽銀行→二階幹事長→片山大臣か?

 片山大臣が6月7日の記者会見で明かしたところによれば、日本商工会議所連合会との話し合いの席上、地銀トップが務めることが多い地方の商議所幹部から「地域の企業の事業承継にあたっては、5%ルールを緩和してもらえないか」と陳情を受けたのがきっかけだったという。

 「私はとっくに緩和されていると思っていたのが、実は緩和されていなかったので、『それならばお出しになったらどうですか』と言ったら出てきたのです」と大臣は言う。

 しかし、関係する省庁の幹部や地銀関係者によると、もう少し裏がありそうだ。

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