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片山さつき大臣が持ち込んだ、とある規制緩和の話

小泉政権の全盛期は今や昔。安倍政権で進む規制改革推進会議の小粒化・軽量化

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

拡大規制改革推進会議で、大田弘子議長(左)から答申を受け取る安倍晋三首相=2019年6月6日、首相官邸

「大臣から相談を受けたのはこの1件だけ」

 地銀の出資規制の見直しが規制改革推進会議の事務局(内閣府)で具体的に検討され始めたのは、地銀協が要望書を提出する1カ月前の今年1月初めごろだった。

 担当の窪田修審議官は規制改革推進会議の大田弘子議長と相談したうえで、金融庁の岡田大信用制度参事官らに「片山大臣との関係もある。どこかで銀行からの要望を聞くという形でスタートさせたい」と内閣府側の意向を伝えている。

 地銀協が要望を提出する前に内閣府の担当官僚が動き出し、金融庁や公正取引委員会に規制緩和の根回しを始めているのだ。窪田氏の部下である長瀬正明参事官は、公取委との打ち合わせで「本件は大臣持ち込み案件という位置づけである。公取委としてもそういう位置づけでご審議に願いたい」と要請している。依頼を受けた公取委側も「長瀬さんから『大臣が関心を持っている案件ですから』と聞いた」と裏付ける。

 地銀協は例年9月に行われる規制緩和の集中受付にあわせて要望書を提出するのを常としてきたが、「今回はイレギュラーでした。1月に入ってから緩和しようということになりました」と地銀協関係者。大田議長も「片山大臣から相談があり、地銀協からホットラインに出してもらうことにしました」と認める。

 ホットラインとは常時受け付けている規制緩和要望の「目安箱」みたいなものだ。大臣自ら規制改革推進会議に案件を持ち込み、内閣府の事務方が大臣の意向を忖度して所管省庁に根回しし、そのうえで「目安箱」に放り込むよう業界を誘導する――。

 まるで将軍が目安箱に直訴する内容を指導するよう見える。何やら自作自演めく規制緩和要望である。

 3年間議長職を務める大田氏にとっても、大臣持ち込み案件は珍しいことだったようで、6月6日の記者会見で「私が大臣から相談を受けたのはこの1件だけです」と答えている。

 このときの記者会見は異例の展開をたどり、元経産官僚の原英史委員が突然、途中で割って入って来て、「大臣だと問題提起できないということはありえない」と言い出し、記者会見の場なのにもかかわらず「質問自体に意味がない」とエキサイトしてしまった。

 会見後のぶら下がり取材で「記者会見の質疑は自由なはずではないですか」と原氏をたしなめると、彼は「質問すべきじゃない」「質問すること自体、意味がない」と人目をはばからずに激高した。ちなみに原氏は、地銀の出資規制の見直しを検討した投資等ワーキング・グループの座長だった。


筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。88年、朝日新聞社入社。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』、『東芝の悲劇』がある。近著に『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』。取材班の一員でかかわったものに『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』などがある。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。レコ漁りと音楽酒場探訪が趣味。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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