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参議選を左右する一人区、鍵を握る農家票

農家は減っているのに、農家票が重みを増すカラクリとは――

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大TPP関連法案の可決後も、JAの支店には「断固反対!!」の横断幕が掲げられていた=2016年11月10日、宮城県内

農家減少でも農家票は重み増す

 しかし、これも意外な事実である。農家票は減り続けており、東北でも例外ではないからである。

 全国の農家戸数は、1960年606万戸、1980年466万戸、2000年312万戸、2015年216万戸である。1960年から比べると3分の1まで減少している。最新の動きを把握するため、統計が明らかな、ある程度農産物を販売している農家(「販売農家」という)数の推移を見ると、2000年の234万戸から2019年には113万戸とこの20年で半減している。

 秋田県を例にとると、県内総生産に占める農業の割合(カッコ内は全国の数字。以下同じ)は2.5%(0.9%)、就業者数に占める農業の割合は9.0%(3.4%)、一般世帯に占める農家の割合12.6%(4.0%)である。いずれも全国の数値よりも高くなっているが、選挙の帰趨を左右するほどの大きな数値とは言えない。

 秋田県でも、農家戸数は1965年の12万戸から5万戸へ、農家の一般世帯に占める割合は同じ期間42.8%から12.6%へと極端に減少している。農業は経済的にも人口的にも大きく比重を低下させているのである。

 それなのに、なぜ農家票がこれほど重要な役割を果たしてしまうのだろうか。

 それは一人区という特徴からである。これは同じ一人区である衆議院選挙の小選挙区も同様である。

 農家票はJA農協によって組織された固定票である。与野党の候補が50対50で競っているところで、少なくなったとはいえ2%の組織票が対立候補に入ると、48対52と4%の差がついてしまう。これに地方の一人区や小選挙区で立候補する政治家は怯える。

 落選すると政治家は失業してしまう。一家の生活をかけた戦いだから真剣である。自民党が公明党と連立を組むのも同じ理由である。公明党の固定票が野党に流れるとその倍の差がついてしまう。

農業保護の競い合いへ

 その結果、農業を保護すべきかどうかで対立するとか、農業についての政策で大きな違いが生じるのかというと逆である。与野党の候補とも農家票を求めて争うため、農業保護を競い合う選挙戦となってしまう。

 米については、立憲、国民民主とも、民主党政権の時に打ち出し、自民党政権になったとたんに廃止された、戸別所得補償政策の復活を掲げている。これは減反で高い水準の米価を維持したうえで、10アールあたり1.5万円の金を農家に支払うというものである。戸別所得補償政策の“戸別”という言葉は、農家にお金をバラマクという意味で、選挙に長けたといわれる小沢一郎氏の命名になるものである。

 他方で、戸別所得補償政策を廃止した自民党は、2014年の米価低落の教訓から、ほとんどただ同然の収入しか得られないエサ用の米に主食用の価格と同額の金を農家に支払い、エサ用の米を増産し主食用の供給を減らして、主食用の米価をより高く維持しようとしている。

 これによって、“減反を廃止”した(これは安倍内閣のフェイクニュースである)といわれるのに、供給量が減少しているので、外食店では安い業務用の米が手に入らないという苦情が出されている。財務省も財政負担が高すぎると批判している。しかし、“農家第一”の農林族議員や農林水産省は意に介さない。

 それどころか、自民党は、小沢一郎氏が戸別所得補償政策の財源をねん出するために3分の1まで大幅に減額した農業公共事業費(「農業農村整備事業」という)を、もとの予算額以上にしたとアピールしている。農業公共事業費の復活を運動し続けてきた全国土地改良事業団体連合会(全土連)の会長は、自民党の二階俊博幹事長である。

 貿易の自由化にも与野党の候補者は賛成しない。関税を下げて農産物や食料品の価格を下げることには、どの候補者も反対である。

 農家票を取りまとめるJA農協は、高米価によって非効率な零細兼業農家を維持し、その兼業所得などを預金として活用して日本第二位のメガバンクまで発展した組織である。農産物価格、特に米価を下げようと主張しようものなら、JA農協を敵に回し、農家票を対立候補に渡してしまう。

 自民党はTPP交渉で米などの重要な農産物の関税は削減しなかった。代わりにアメリカ等に安い関税で輸入できる米の輸入枠を設けたが、これで輸入したと同量の米を国内市場から買い上げるという政策を打ち出し(つまり国内市場での供給量、米価は変わらない)、財政負担で輸入米の影響を処理することで、米農業への影響が全く出ないようにした。

 また、関税を下げる牛肉や豚肉については、過剰なまでの国内対策を講じ、焼け太りとまで言えるほどの手当てを行った。今行われている日米貿易交渉ではTPP以上の譲歩はしないことを掲げている。

 この点は、与野党の候補とも一致している。野党はもっと手当てを充実すべきだと主張する。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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