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選挙公約のポピュリズムと国民のSOS

「知りたくない真実」を「議論せざるを得ない現実」へ変えた老後2000万円不足騒動

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹・中央大学法科大学院特任教授

選挙公約のポピュリズム拡大報告書「高齢社会における資産形成・管理」。原案は「公的年金だけでは望む生活水準に届かないリスク」などの表現があったが、最終的に「公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動」などに修正された

 参議院議員選挙に突入した。専門性を欠いたポピュリズム的な言説が繰り広げられており、有権者の無知や偏見につけ込む動きが広がっている。

 火に油を注いだのは、「老後豊かに暮らすには年金だけでは2000万円不足する」という金融庁の金融審議会の作業部会がまとめた報告書である。「100年安心といいながら年金制度は崩壊しているのではないか」、「家計の消費に大きな影響を及ぼす消費増税は延期すべき」など、ポピュリズムの絶好の餌食となっている。

 野党は、今秋の消費増税には反対しながら、年金の給付額についてはもっと増やせ、つまり「負担はそのままで、給付は増やせ」といっているが、この論理は、ポピュリズムの常とう句といえよう。

選挙ポピュリズム拡大「2000万円貯金・年金カット追及」合同ヒアリングで、金融庁、厚労省、財務省の担当者ら(手前)に質問する野党議員ら(奥)=2019年6月24日午後3時16分、国会内、岩下毅撮影

 しかし、これを切り捨てて無視することは問題だ。ノーベル経済学賞学者のジャン・ティロール氏は、「ポピュリズムの台頭は、グローバリゼーションや技術の進歩の恩恵から締め出された人たちのSOS信号だととらえるべきだ」(「良き社会のための経済学」、日本経済新聞社)といっている。

 人生100年という超長寿社会を迎える中で、われわれ一般国民は、いかに老後の生活設計を行うのか、これが国民から発せられているSOSである。ポピュリズムは、それに対応をすることなく不安をあおることで、国民から一定の支持を得ようと考える。

 責任ある対応としては、国民の年金や老後の生活に関するSOSに対して、グランドデザインを示し、前向きな政策議論に転換していくことが必要ではなかろうか。

 そのような観点から、今回の年金を巡る騒動の意義を考えつつ、その先の議論の方向を示してみたい。

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筆者

森信茂樹

森信茂樹(もりのぶ・しげき) 東京財団政策研究所研究主幹・中央大学法科大学院特任教授

1950年生まれ、法学博士(租税法)。京都大学法学部を卒業後、大蔵省入省。1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長、2006年財務省退官。この間東京大学法学政治学研究科客員教授、コロンビアロースクール客員研究員。06年から中央大学法科大学院教授、(一社)ジャパン・タックス・インスティチュート(japantax.jp)所長、東京財団上席研究員。10年から12年まで政府税制調査会専門家委員会特別委員。日本ペンクラブ会員。著書に、『税で日本はよみがえる』(日本経済新聞出版)、『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)など。

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