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選挙公約のポピュリズムと国民のSOS

「知りたくない真実」を「議論せざるを得ない現実」へ変えた老後2000万円不足騒動

森信茂樹 東京財団政策研究所研究主幹

参院選後に公表の新たな財政検証で国民的な議論を

 第1に、わが国の公的年金制度が久々に議論の俎上(そじょう)に上ったことには大きな意義がある。2004年の年金改革が、「年金100年安心プラン」というキャッチフレーズで語られることになったため、年金に関する議論は急速に低下していた。

 その後2014年6月の年金の財政検証は、第2次安倍内閣初めてのもので議論が予想された。しかし、内容は、内閣府の超楽観的な経済前提を基にして、所得代替率が5割を超えており、またもや国民的な議論にならなかった。しかし、今回の「2000万円」問題は、一気に年金問題を国民の最大関心事に引き上げるという見事な効果を発揮した。選挙後には、公表予定の新たな財政検証に基づく国民的な議論を行うモメンタムを維持していきたい。

 幸いなことに、良識ある野党政治家の中から、「年金は政争の具にはしたくない」「超党派で議論すべきだ」という声が出始めている。

選挙ポピュリズム拡大街頭で年金問題を訴える労働団体のメンバーら=2019年7月3日、札幌市中央区、田之畑仁撮影

マクロ経済スライドをより厳格に

 第2に、「100年安心」というキャッチフレーズの意味が問題となったことだ。安心の最大の根拠は、「マクロ経済スライド」にある。この制度は、「年金額のスライドについて、一人当たり賃金の伸びや物価の変動を基礎としながら、現役人口の減少や平均余命の伸びの分だけスライド率を抑制する」ものであり、年金を安定的にするには欠かせないものである。しかし、ネーミングの問題もあり、ほとんどの国民には理解されないまま今日まで来たのだが、今回初めて国民的な議論になり、次第に理解が進んできている。

 現実に足元の経済指標が今後も続くと仮定して試算すると、公的年金の積立金は2050年代半ばには枯渇する可能性が高い。こうなると年金は(当年度の年金支払いをすべて当年度の社会保険料で賄う)完全賦課方式になり、受給額は「突然」大幅に減少する。所得代替率(現役世代の所得に対する割合)は50%を大幅に下回り、豊かな老後どころの話ではない。

 負担増を求めずこれに対処するには、支給開始年齢を引き上げたり年金加入要件を緩和したりすることに加えて、マクロ経済スライドをより厳格なものにしていく必要がある。

 現行制度の下では、賃金・物価の上昇分がマクロスライド部分(おおむね0.9%)より低い場合には、その差額分は年金調整が行われない(その分過大な支給が行われる)仕組みとなっている。また賃金・物価上昇分がマイナスになった場合には、マクロ経済スライドは実施されない。この結果、年金を支給するためにはその分余計に積立金を取り崩す必要が出てきて、枯渇化が進んでいくのである。

 きつい話ではあるが、マクロ経済スライドをフル発動できるように改めていくことが、年金制度の維持には必要な政策である。

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筆者

森信茂樹

森信茂樹(もりのぶ・しげき) 東京財団政策研究所研究主幹

1950年生まれ、法学博士(租税法)。京都大学法学部を卒業後、大蔵省入省。1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長、2006年財務省退官。この間東京大学法学政治学研究科客員教授、コロンビアロースクール客員研究員。06年から18年まで中央大学法科大学院教授、(一社)ジャパン・タックス・インスティチュート(japantax.jp)所長。10年から12年まで政府税制調査会特別委員。日本ペンクラブ会員。著書に、『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版)『税で日本はよみがえる』(日本経済新聞出版)、『未来を拓くマイナンバー』(中央経済社)『消費税、常識のウソ』(朝日新書)『日本の税制 何が問題か』(岩波書店)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除』(共著、中央経済社)『どうなる?どうする!共通番号』(共著、日本経済新聞出版社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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