インバウンド3000万人 求められるおもてなし
法律改正で国家資格がなくても外国人に有料で「ガイド」ができるようになった。
古屋絢子 全国通訳案内士(英語)
東京オリンピック・パラリンピックまで1年を切りました。ビザ緩和政策で「インバウンド」と言われる訪日外国人は、年間3000万人を超え、さらに4000万人に迫る勢いで増えています。それにともない、私たちの生活空間でも、外国人を身近に感じるようになってきました。
論座では、互いを知るため、一歩踏み出す機会としてワークショップ「私にもできるかも! 外国人客のガイドに必要なスキルを学ぶ」を開催します。
私たちにできるおもてなしは何か。どうコミットしたらいいのか。彼らは私たちに何を求めているのか。一緒にガイドのこつや心構えを学びましょう。開催概要や申し込みはここから。(終了しました)
朝一で嵐電を乗り継ぎ行った場所は?
7月の梅雨の合間のとある日。大学生の子ども2人の夏休みに合わせて両親が休暇を取り、アメリカから初めて日本にやってきた4人家族を、私は2週間かけて東京から広島までの旅をガイドした。
京都でのツアー。朝は市営バスと嵐電を乗り継ぎ嵐山へ。京都の中心部から約1時間で、緑深い山と桂川が我々を迎えてくれる。なぜ、朝一でここをガイドしたのか――。
お客様が竹林の写真撮影を熱望されていたからだ。ガイドの仕事はそこに案内して終わりではない。ここで竹と日本人とのかかわりや、七夕の話を紹介した後、今度は天龍寺へ移動した。

京都・嵐山の竹林。海外でも紹介され、訪れる外国人が多い=Sean Pavone/shutterstock.com
天竜寺は禅宗の一つ臨済宗天龍寺派大本山だ。お客様にとって関心の高い「禅」「日本庭園」について説明。最近、アメリカの東海岸では「マインドフルネス」が流行中ということもあり、次々と質問が飛んできた。
「瞑想の仕方は?」
「禅とはなにか?」
こういった本質的な質問まで飛び出すこともあり、近くにいたお坊さんに質問に答えていただくこともあった。境内で本格的な精進料理を召し上がった後は、お客様を茶道・書道体験の会場に案内し、昼の部は終了。夕方、お客様とホテルのロビーで再会し、祇園方面へと徒歩で向かった。
京都の街中には、とにかくちょうちんをよく見かけた。旅の初めに案内した東京の下町では、ちょうちんといえば居酒屋の印、と紹介し笑いをとっていたが、ここ京都でのちょうちんは少し特別である。祇園祭のちょうちんから話をはじめ、祭りばやしの練習を聞きながら散策するうちに、八坂神社に到着した。そこで取り出したのは、タブレット。祇園祭のハイライトである山鉾巡行の写真・動画を紹介することで、祭りの臨場感を伝えられたらと考えた。
夜の祇園ツアー、後半戦の目玉は何といっても花街の文化。海外では「ゲイシャ」という言葉が有名になっており、日本を題材にした映画、小説でも度々登場する。そうしたフィクションの中には本来のイメージとかけ離れたものもあるので、タブレットで写真を見せながら花街のビジネスモデルから、秘密のベールに包まれた芸妓や舞妓の暮らしまでを街中の建物と関連づけて話を進めた。
最後に、お客様の好みに合う飲食店に送り、この日のツアーは終了した。
生活圏に押し寄せるインバウンド
前振りが少し長くなったが、全国通訳案内士という仕事の一端をイメージしていただけただろうか。
日本を訪れる2018年の外国人客数は、年間3000万人を超え、今年も増え続けているという。それにともない、「インバウンド」という言葉をよく耳にするようになった。

個人ガイドツアーといっても、色々なニーズがある=筆者提供
ところが、その「インバウンド」をとりまく環境が、今、大きく変わりつつある。
東京や京都の市街地を歩けば、外国語があちこちで飛び交う光景によく出くわすようになった。地方の自然豊かな山村にも、外国人客が次々と押し寄せている。いや応なく、私たちはそうした外国人客と様々なシーンで付き合うことになる。それなら互いに理解し合い、私たち一人一人が持っている力、眠らせている力を活用した方がいいと考えてはどうか?
ここからは、世界各地から日本を訪れるお客様とともに日本を旅し、日本の魅力を紹介する仕事に従事する筆者から見た「インバウンドの現状」をみなさんと一緒に考えていきたい。