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AIと報道(上)ヒトにしかできない仕事

津田大介が七つの提案「スロージャーナリズム」機能高めて生き残れ

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

「報道の機械化」は不可逆な流れだ

ジャーナリストでメディアアクティビストの津田大介さん=撮影・吉永考宏拡大ジャーナリストでメディアアクティビストの津田大介さん=撮影・吉永考宏
スマートニュースフェローの藤村厚夫さん拡大スマートニュースフェローの藤村厚夫さん

 ジャーナリズム活動をめぐる様々なフェイズでAI(人工知能)を導入する動きが活発化している。

 ネット上の膨大な情報の中から、災害や事故などニュースの端緒となる情報を人間に代わってAIが見つけ出す→定型があるジャンルについて記事生成を「AI記者」が行う→出来上がった記事をAIが校正・校閲する→記事に見出しをつけるなどの編成作業をAIが担当する→「AIアナウンサー」がラジオ番組などで原稿を読み上げる→読者コメント欄についてAIが事実上の危機管理を行いながら運営する→事実かどうかを検証するファクトチェック作業をまずはAIが行って人間に引き継ぐ……。作業工程の始まりから終わりまで、AIを積極活用した「報道の機械化」はもはや不可逆の流れだ。

 新聞やテレビなど既存メディアの経営が悪化する中、「AIに任せられる部分はすべてAIに任せてコスト削減を図り、その分負担が軽くなった記者は取材を深めて本来ヒトにしかできない『より創造的な仕事』に集中しよう」――。「AI時代のジャーナリズム」を考える際のコンセプトを表現すればこんな感じになるだろう。

 そして「報道の機械化」が進めば進むほど、「一人のジャーナリストとして今何をすべきか」「メディアとしてどうあるべきか」が今まで以上に鋭く問われることになるのは必至だ。

 ジャーナリズム活動にAIを採り入れることと、フェイクニュースに抗うことは直接的には関係がない。とはいえ、大量の情報の中から「フェイクの疑いがある情報」を機械的にピックアップしていくという点ではフェイクニュース対策としてもすでに有効に活用され始めている。

 また、フェイクニュースを無批判に信じ込む結果として社会の分断が進み、自分が見たい情報しか見えなくなる状態に陥る人々が増えるなど事態が深刻化する昨今、「アルゴリズム」(コンピューターで計算を行う時の計算方法)を使ってそうした人々を何とか「多様な言論」に触れさせ、分断解消に一役買おうといった取り組みも始まっている。

 スマートニュースフェローの藤村厚夫は「AIがジャーナリズムのあり方に全方位的に影響を与えることはもはや間違いのない段階に入った。私たちを『メディア大航海時代』へと導く巨大な原動力がテクノロジーだ」と強調する。

 また、ジャーナリストでメディアアクティビストの津田大介は、メディアが新たに「スロージャーナリズム」的機能を打ち出していくべきだと提言。「AI時代のジャーナリズム」として今のメディアが生き残りをかけて新たに挑戦すべきこととして七項目の提案をする。

 ジャーナリズムとAIの「蜜月」関係が今後さらに深まり進展することが確実視される中、今のジャーナリズムは2050年までにどんな変容を遂げるだろうか。

ファクトチェックとは何か

 「AI時代のジャーナリズム」をめぐる具体的な動きをみていく前に、まずは日本でも認知度が上がってきた「ファクトチェックとは何か」という点を押さえておこう。

 政治家の発言やメディアの報道をはじめ、ソーシャルメディア上にあふれる真偽不明の情報を検証してその結果を社会に公表する「ファクトチェック」(真偽検証)。日本では2017年6月、弁護士の楊井人文(ひとふみ)や藤村らが各界の識者に呼びかける形で初の本格的なファクトチェックを行う個人や組織をネットワークする団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)を仲間とともに旗揚げし、18年1月にNPO法人化された。

 「私たちは、事実と異なる言説・情報に惑わされ、分断や拒絶が深まるような社会を望んでいません。そうならないためにも、ファクトチェックをジャーナリズムの重要な役割の一つと位置づけて推進し、社会に誤った情報が拡がるのを防ぐ仕組みを作っていく必要があると考えました」。FIJは設立の趣旨にそううたい、「真偽を検証する活動の量的・質的な向上が、誤った情報に対する人々や社会の免疫力を高め、ひいては言論の自由を守り、民主主義を強くすることにつながる」とアピールした。

 FIJの発起人の一人で理事兼事務局長を務める楊井はこう強調する。

 「ファクトチェックはそもそも『フェイクニュースを暴く』ことを目的としたものではなく、あくまで情報や言説が『事実と根拠に基づいているかどうか』をチェックするためのものです。情報や言説の中に含まれる『客観的に検証可能な事実のみを対象に検証作業を行う』のであり、その情報を発信している個人の意見や見解の是非を評価するのではないということがポイントです」


筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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