メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

100年間の人生の過ごし方

100年という長い時間を考えれば、うまく行くだけの人生などあり得ない。

吉岡友治 著述家

新自由主義の衝撃

 そんな20世紀的バランスが一気に崩れたのは「新自由主義」の導入からだ。急激な技術発展で、安定的に利益を生むことが難しくなり、むしろ、誰もやっていない「イノベーション」だけが巨大な富をもたらす。何かを思いついて、社長になって会社を作り、最大の利益を求めてエネルギッシュに突進する。それに成功した人のみが利益を総取りする。アマゾンもアップルもそういう会社だし、日本ならホリエモンがそのシンボルだ。結局、仕事はすべて「荒稼ぎ」という形で一元化されることになったのだ。

 当然のことながら、会社も個人の「人生イメージ」など顧慮している暇はない。人生と仕事の切り離しが始まり、「能力主義」とか「成果主義」が声高に言われ、会社にどれだけの利益をもたらしたか、で人間の値打ちも評価される。稼ぐ人間が報酬も高い。報酬が低いのは能力が低いせいだ、という単純で過激な言説がまかり通った。

人生100年時代拡大Worawee Meepian/shutterstock.com

金持ちに生まれなかった人の人生戦略

 ただ「荒稼ぎ」する立場になるのも容易ではない。実際、ジェフ・ベゾスは若いときにアマゾンを計画し、起業して巨大企業にしたが、創業時には親が30万ドル援助してくれたという。元々のアイデアも良かったのかもしれないが、企業をスタートさせるにはそれだけの元手がいる。親たちだって食いぶちくらい残しておかなくてはならないので、30万ドルの2倍以上は持っていたに違いない。そう考えると、起業できる人は、そもそも財産を持っている「特権階級」なのだ。

 そういう人は、すでに、親の金で良い学校に行き、親の金で留学したり、コネで組織に入ったり、起業したりして「エライ人」になる。我が国の歴代の総理大臣も財務大臣も、まさにそういう生き方をしている人が目に付く。新自由主義の時代とは、良くも悪くも、そういう身も蓋もないメカニズムがあからさまになった時代なのである。

 ただ、私は、そういう恵まれた人のことを非難したり、うらやんだりしているわけではない。ただ、そういうリソースがない以上、ホリエモン=ベゾス流のやり方は、自分にはまったく適用できない、と思うだけである。地方の貧乏人の息子として生まれたら、それに合わせたやり方をしなければならないのだ。

フリーランスか組合か?

 たいていの人間は、自分の能力や成果に自信を持てない。もし能力に自信があったら、それを十全に活かせる場を見つけるべく、よりよい待遇を求めて転々としつつグレード・アップしていく。あるいは、自分でもっとも稼げる「良き環境」を自前で作る。逆に言えば、職場にしがみつくのは、自分の能力に不安があるからなのだ。

 企業も、もちろん、その心理を見透かしている。だから、事あるごとに「お前には能力が足りない!」と言いつのる。能力のある人間には「自立できないのでは?」という不安を与え、自社に縛り付ける。自己評価が高くない人間はそれに乗じて賃金を抑える。企業のブラック化は言わば必然なので、『資本論』を読むまでもなく、より長時間働かされるか、より「効率的」つまり激しく働かされるか、の二つが進行する。どちらにしても労働は買いたたかれて、しだいに窮乏化していく。

 もしそういう搾取が、労働者が必然的に陥る状況だとしたら、それを打開する方法は二つしかない。一つは、旧来のように集団を形成して、企業と互角に交渉する力を持ち、自分たちにとってより有利な条件を引き出すことである。『共産党宣言』で言うように「万国の労働者よ、団結せよ」である。

 だが、もし、そういうやり方が嫌なら、自分が当てにできるリソースを拡大するしかない。社会活動家・湯浅誠は、貧困という現象が起こる原因を「溜めのなさ」と表現している。「溜め」とは外部の衝撃を吸収してくれる緩衝材である。今、有能であるなど大した意味はない。その仕事が10年先にもあるかどうか、誰にも分からない。それどころか、今稼げる仕事かどうかも問題ではない。派手な仕事は皆が群がり、競争して勝つのは容易ではない。

 むしろ、皆がやらないことをあえて学び、自分のリソースを増やす。すぐ役立たなくても、将来生きていけるかもしれない技能やスキルを蓄え、注文があったら「はい、できます!」といち早く手を上げる。それだけで10年は仕事ができる。これはフリーランスのサバイバル法だ。『ライフ・シフト』で推奨している生き方は、実は、これに近いのである。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

吉岡友治

吉岡友治(よしおか・ゆうじ) 著述家

東京大学文学部社会学科卒。シカゴ大学修士課程修了。演劇研究所演出スタッフを経て、代々木ゼミナール・駿台予備学校・大学などの講師をつとめる。現在はインターネット添削講座「vocabow小論術」校長。高校・大学・大学院・企業などで論文指導を行う。『社会人入試の小論文 思考のメソッドとまとめ方』『シカゴ・スタイルに学ぶ論理的に考え、書く技術』など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

吉岡友治の記事

もっと見る