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「年金」が参院選の最大争点になって思うこと

「分かち合い」の考え方が劣化していく恐ろしさ

山口智久 朝日新聞オピニオン編集部次長

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参院選の争点となった「年金」

 金融庁審議会の「老後資金2000万円」報告書を機に、「年金」が参院選の争点としてクローズアップされている。

 いくつかの政党は、年金制度の抜本改革を掲げる。国民の関心も年金が最も高いようで、朝日新聞記事によれば、6月3日から1カ月間につぶやかれた日本語ツイートから政策にかかわる言葉を抽出したところ「年金」が圧倒的に多かったようだ。「介護」「老後2千万円」が続いて多かった。

 野党は「年金不安」を煽れば、票が動くと思っているのだろう。2004年に国会議員の年金未納問題が明るみ出て、その年の参院選で民主党は躍進。第1次安倍政権だった2007年には「消えた年金」問題が噴出し、参院選で自民党は大敗。民主党は参院第1党となり、2009年の政権交代への足がかりとなった。

 ところが、年金を争点化したことに、年金政策にかかわる民主党議員たちは忸怩たる思いを抱いていた。2012年4月7日付朝日新聞の連載記事「民主党政権 失敗の本質 3」が、それを伝えている。

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 「消えた年金」を暴いて自公政権に迫り、「ミスター年金」と呼ばれた民主党の長妻昭は、政権交代最大の功労者の一人だった。その長妻は今、「年金を争点化させるつもりはなかった」という。「天下りと並ぶ官僚任せの古い政治の弊害として取りあげた。年金そのものは与野党で協議すべき課題だと今も思う」
 民主党の代表や幹事長として政権交代を目指してきた鳩山由紀夫に聞くと、明け透けな返答で驚いた。
 「年金がこのままではボロボロになって、年を取ってももらえなくなるという語りかけは、非常に政権交代に貢献してくれた」
 年金のありようを探る現場の政治家の思いと、有権者の支持獲得を優先する党指導者の思いは、大きくかけ離れていたのだ。
(中略)
 年金に取りくんできた与野党議員の間には、政治争点にしてはならないという共有認識があった。
 「年金は『国家百年の計』。対立をあおり、不信感をあおって、制度を崩壊においやるような愚は避けたい」。民主党参院議員だった今井澄は02年、著書に記した。与野党合意で年金改革をしたスウェーデンを視察。同国は90年代にバブルが崩壊して失業率が8%を超え、戦後最悪の経済危機に陥った。少子高齢化も進み、国民の危機感が与野党協議の背中を押した。
 今井が02年にがんで亡くなると、民主党参院議員の山本孝史が年金一元化案をつくり、03年総選挙のマニフェストに「提言」として控えめに載せた。山本はこの案を強くアピールしなかった理由について「年金は超党派で議論が必要だ」と説明していた。その山本も07年にがんで亡くなった。
 与野党の接点を探る彼らの努力は「選挙」で吹き飛んだ。国会議員の年金未納問題で沸いた04年参院選は大きな節目となった。「年金不信」は自公政権を直撃し、民主党が勝利。民主党は「年金改革など対立争点を明確にし、マニフェスト選挙を展開することで支持拡大を図れるという『成功体験』」と総括した。

 年金制度に通じている政治家は、抜本改革の余地がほとんどないことに気付いている。目的とすべきなのは老後不安の払拭であり、その手段として年金制度の抜本改革以外にもいくらでもある。私が特に進めてほしいのは住宅政策だが(参照『「老後は持ち家」は今や昔。年金より住宅を!』)、さまざまな政策アイデアを競ってほしい。実現する可能性が乏しい年金制度改革に、時間を費やす余裕はない。

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筆者

山口智久

山口智久(やまぐち・ともひさ) 朝日新聞オピニオン編集部次長

1970年生まれ。1994年、朝日新聞社入社。科学部、経済部、文化くらし報道部で、主に環境、技術開発、社会保障を取材。2011年以降は文化くらし報道部、経済部、特別報道部、科学医療部でデスクを務めた。2016年5月から2018年10月まで人事部採用担当部長。

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