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「山里亮太さん蒼井優さん結婚会見」の一日

報道を知らなかったチャンネルプロデューサーが生み出した〝記録〟

山本剛史 「AbemaNews」のチャンネルプロデューサー

急きょ作成した「見たい」と思わせる画像をTwitterや番組表に掲載

その朝に飛び込んできたビッグニュース

 歴史的な日は、突然訪れました。

 2016年4月11日に開局した「AbemaTV」が開局以来一つの目標として掲げていたのが、1000万WAU、つまりサービスの週間利用者が1000万に達することでした。

 6月にこの目標を初めて突破したのですが、そのきっかけとなったのが、6月5日の「山里亮太さん蒼井優さん結婚会見」だったのです。

 この日、私たちが何をしたのかを振り返ってみたいと思います。

 南海キャンディーズの山里亮太さんと蒼井優さんが電撃結婚――6月5日の朝飛び込んできたビッグニュースを、各メディアが一斉に取り上げました。その日の夜にもツーショット会見を開くのではという情報が入り、私たちが「AbemaNewsチャンネル」で開局から培ってきた嗅覚が反応したのです。

 まず感じたのは、このニュース自体の強さでした。トップお笑い芸人と国民的女優の結婚、一般的に興味を持たずにはいられない組み合わせです。

 そうでもない、という意見もあったかもしれませんが、朝の一報からネット上は大騒ぎ。馴れ初めは? お互いの呼び方は? プロポーズの言葉は? 実は何かの番組の企画なんじゃないか? など、たくさんの気になることが出てきました。知りたいという欲求が世の中に生まれていると感じたのです。

 さらに二人がFAXやブログでの報告ではなく、揃って記者会見で発表するというのです。

 これも最近ではかなり異例のことでした。「これはいける」。すぐに会見が放送できるかどうか、確認作業に入りました。

 次に入ってきた情報は、「会見は夜」「AbemaTVで放送はできそう」。場合によっては地上波テレビでは生放送が難しい時間帯になるのでは、ということでした。

 ネットメディアの勝負所です。これはもしかしたらもしかするのではと、お昼前から感じ始めました。SNS上では「どこで会見が見られるのか」と探すような投稿が出てきました。

 その次に入ってきたのは、「会見の生中継はできない。会見終了後解禁」という情報でした。これでもう一段ギアがあがります。生中継じゃなくてもいい。

 私たちは、会見を“最速”且つ“全編ノーカット”で放送する体制を構築することにしました。生中継ではないですが、会見が終わった瞬間に放送する。どこよりも早く”最速全編ノーカット”で流します、とプレスリリースを出し、SNSで告知したのです。

 「どこで山ちゃんと蒼井優さんの結婚会見は観られるんだ?」というユーザーの疑問に対するアンサーを“アベマTVで最速ノーカット配信”という形でいち早くばら撒きました。

 刻々と変わる条件に瞬時に反応、1分1秒が勝負、まさに走りながら考え、次々に決断を迫られる1日となりました。

会見の放送前にキャスター2ショットで「前説」を展開

「まもなく、まもなく」

 「AbemaTV」ユーザーへも徹底した告知を行いました。お昼の番組「けやきヒルズ」の放送後、急遽テレビ朝日の大木優紀アナウンサーに宣伝動画の撮影を依頼。2時間後には「AbemaTV」内のCMとして緊急編成し告知を開始したのです。

 ライバルは他のインターネットメディアです。他社がSNS上に投稿しているクリエイティブに対して、埋没しないクリエイティブで仕掛けないといけない。デザイナーチームを緊急招集し、「AbemaTVはこの会見について、どういう見せ方で訴求するべきか?」デザイナーと即座に詰めて新規デザインを作成。Twitter用のクリエイティブとして展開しました。

 記者会見は夜7時から始まりましたが、中で何が行われているか、情報の解禁も会見終了後となることが、まさに会見が始まる2分前に明かされました。会見は始まっているけど、内容はまだわからない。ユーザーの飢餓感は頂点に達します。

 ここで目指したのが、スマホで何かを立ち上げたら、会見を“アベマTVで最速ノーカット配信します”という情報に接触できるようにする状態です。Twitter、YouTube、LINE、インスタグラムと「AbemaTV」の公式SNSアカウントで“まもなく放送”を一斉に展開しました。

 ニュースの現場チームは、会見の解禁前からさらにおきて破りの放送を開始します。

 「AbemaNewsチャンネル」の辻歩キャスターと楪望キャスターが揃って現れ、会見内容には触れられないにもかかわらず、「まもなく会見を放送します」「まだ会見は続いています」「フォトセッションに入りました」などと、40分にわたり「前説」を繰り広げたのです。この「まもなく、まもなく」の間に、さらに視聴者が集まりつづけました。

 会場での会見が終了し、山里さんと蒼井さんが退出した瞬間! 一斉に情報が解禁され、私たちは即座に会見を冒頭から放送開始しました。

 ここで予想外だったのが、ほとんどのネットメディアが、追随してこなかったのです。半ば独占状態になる中、ダメ押しの戦術が花開きます。

 私たちがこれからのニュースメディアの一つの在り方と考えているのが、メディア同士のパートナー連携です。

 私たちは、大手ニュースアプリとのコンテンツ連携の準備を水面下で進めていました。実はこの会見の前日に連携の動作テストをちょうど終えていたのです。

 何か運命的なものを感じながら、急きょ連携を実施しました。先方のメディアの「AbemaTV」の枠をタップすると、会見を「AbemaTV」で観られる導線を表示。先方メディアのユーザーにもコンテンツを楽しんでもらえる状態を作り、より多くの視聴者に会見を届けることに成功しました。

 事前のPR、地上波含め他メディアにない放送の実現、パートナーメディアとの連携、この3拍子が揃ったこの日、視聴数が伸びていくのを見ながら、これは凄いことになったぞ、と感じました。

わずか1時間ほどで番宣VTRを制作し各所で放送

報道を知らなかったプロデューサーに「見えてきたもの」

 「AbemaTV」は、テレビ朝日とサイバーエージェントが共同で出資している事業です。この2社の協力体制、テレビ朝日と「AbemaTV」の制作チームが一緒にコンテンツ作りを担い、サイバーエージェントが中心となってプロダクト開発とマーケティングを実施することによって、「AbemaTV」は成り立っています。

 私は「AbemaNewsチャンネル」のプロデューサーを務めていますが、サイバーエージェント出身で報道は未経験の人間です。

 私自身はインターネットの市場で事業を作っていきたいと考え、新卒でサイバーエージェントに入社しました。入社後は、ポイントプラットフォーム事業の立ち上げ時に参画しました。買い物などで得られる様々な種類のポイントを集約して、ギフト券やマイレージなどに交換できるサービスです。

 ここで営業とサービスプロデューサーを経験、その後「AbemaNewsチャンネル」に携わるようになりました。ニュースに関するバックグラウンドは全くありませんでした。

 「AbemaTV」に来た私が最初に感じたのは、大きな文化の違いでした。テレビ朝日とサイバーエージェントの二社の違いというよりは、テレビ業界とネット業界、大企業とベンチャー企業という違いです。物事の考え方や捉え方、進め方が違うと、様々なところでズレが生じるものです。

 当初、報道経験がない上に社会人歴も浅い私は、テレビ朝日の報道幹部の方と、まともな会話すらできていなかったと思います。

 そんな中で取り組んだのが、どうやって見てもらうか、という施策です。

 会見で実際にやった施策も、今では機能していますが、その形になるまでの道のりは長いものがありました。

 例えば、放送前の外部への展開。地上波はいいものを作れば見てもらえる、そもそも話題を逆算して人を連れてくるということの重要性がそこまで高くありません。ある一定のお客さまがいて、テレビは他のチャンネルとそのパイを取り合う。ネット上にうまくSNSを活用して情報を事前に出していきましょうと言ってもピンとこない。それだったら放送のクオリティをちょっとでもあげるほうに力を割きたくなる。それは組織の文化として作り直す必要がありました。

 一方で、テレビ朝日が持つ報道の速報力、即時に対応する力は、ウェブメディアサービス側からみると新鮮でした。当日にニュースが発生して、そのクリエイティブを当日納期で作る、各SNSアカウントで一気に告知し、視聴者に届ける。これは報道というジャンルだからこそ求められることで、サイバーエージェントで育った人間にとっては、新しい筋肉を使う感覚でした。

 相違を感じながらも、インターネットの新たなマスメディアとして、同じものを目指していく姿勢を追求することを最優先してやってきました。「AbemaNewsチャンネル」に携わるメンバーがそれぞれの立場からそれを解釈し理解し行動にしていく。それがこの開局からの3年で、番組づくりとマーケティング、広くは組織づくりにまで浸透していったと感じます。その積み重ねがついに少し花開いた、と感じたのが、先日の山里亮太さん蒼井優さんの結婚会見の日の出来事でした。

二人の会見の放送がAbemaNewsの転機となった

ネット×映像ニュース 情報の届け方

 「AbemaNewsチャンネル」がこれまで培ってきたポイントは大きく5つあります。

1. 最速・ノーカットの徹底したライブ主義
2. 話題とリーチを逆算したネット展開
3. 他にはない「AbemaTV」ならではの視聴体験
4. 後からも知れるニュースの形
5. ターゲットを取りこぼさないメディア連携

 ちょっと説明します。

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