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「ないものはナイ時代」に何を作ればいいのか?

星のや軽井沢にはテレビがありません/売れ筋を追っていると価格競争を抜け出せません

南雲朋美 地域ビジネスプロデューサー 慶應義塾大学・首都大学東京非常勤講師

「アートに資本原理とか市場原理は働くのか?」

 私が星野リゾート在職中、代表の星野さんは時折「ニーズにないもの」という言葉を口にしていましたが、あるアーティストも同じ言葉を使っていたので興味を持ったことがありました。

地域プロデュース3拡大大磯でアーティスト活動を行う朝比奈賢さんと作品の一例=朝比奈さん提供

 彼は、国内外で活躍しているアーティストで、「アートな温泉旅館」を作るプロジェクトの企画で一緒に仕事をしました。彼はアート活動以外にアルバイトもしているというので、ふと、アートだけで生計を立てるのは大変なのだろうなと思い、次のような質問をしました。

 「アートに、資本原理とか市場原理は働くのですか?」

 「アートってもうかるのですか?」ということを回りくどく聞いただけなのですが、彼は笑いながら答えてくれました。

 「働かないでしょうね。なぜならばアートはニーズにありませんから」

 しかし、「アートはニーズにない」と言われても、日本には数多くの美術館があり、有名な展示会であれば行列ができるほどなので、ニーズはたっぷりあるように見えます。また、絵画の取引も様々な形態で執り行われています。そこで、こう聞いてみました。

 「資本主義の日本において、アートのニーズはどうあると思いますか?」

 すると、こう答えてくれました。

 「ニーズに応えているだけでは、世の中を先に進めることはできないと思います。アートは世の中を先導する役割があり、『市場の先』にあるものだと考えているからです。アーティストの役割は問題提起をすることです。僕個人としては『アート』と『スポーツ』が政治と経済をひっぱっていけるのではないかと思っています」

 てっきり「情操教育」とか「感受性を豊かにするため」といった言葉が返ってくるものと思っていたので、さらに興味がでました。

 「では、どうやってニーズにないものを形にするのですか?」

 この質問には、こう答えてくれました。

 「ニーズを外に求めるのではなく、自分の内なる声に耳を傾けるのです。そうして、自分の中にうちでてきたものを形作っていくのです。アートに『正解』はありません。消費者のみなさんはアートの中から『正解』を見つけてるのではなく、好きなものを選べばいいのです。『好き』ということに『正解』や『間違い』はないのです」

 その時に、星野さんが経営者として口にしていた「ニーズにないもの」を求める意味がようやく理解できました。ニーズに応えているだけでは、革新的な商品やサービスを作ることはできない。ニーズにないものを見出して、まだ見ぬ「市場の先」にあるものを作らないといけない、ということだと解りました。

 しかし、アーティストにはもともと「才能」という先天的な能力がありますが、そういった特別な才能を持たない人が「アート的な発想」をして「ニーズにないものを作る」ためにはどうしたらよいのでしょうか。

 話はそこからさかのぼること約10年前のことです。

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筆者

南雲朋美

南雲朋美(なぐも・ともみ) 地域ビジネスプロデューサー 慶應義塾大学・首都大学東京非常勤講師

1969年、広島県生まれ。「ヒューレット・パッカード」の日本法人で業務企画とマーケティングに携わる。34歳で退社後、慶應義塾大学総合政策学部に入学し、在学中に書いた論文「10年後の日本の広告を考える」で電通広告論文賞を受賞。卒業後は星野リゾートで広報とブランディングを約8年間担う。2014年に退職後、地域ビジネスのプロデューサーとして、有田焼の窯元の経営再生やブランディング、肥前吉田焼の産地活性化に携わる。現在は滋賀県甲賀市の特区プロジェクト委員、星野リゾートの宿泊施設のコンセプト・メイキングを担うほか、慶應義塾大学で「パブリック・リレーションズ戦略」、首都大学東京で「コンセプト・メイキング」を教える。

 

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