メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

AIと報道(下)ビジネスとジャーナリズムの両立

アルゴリズムを使って社会の分断を何とか解消しようという試みも

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

「ビジネスとジャーナリズムの両立」――JX通信社

JX通信社社長の米重克洋さん=撮影・吉永考宏拡大JX通信社社長の米重克洋さん=撮影・吉永考宏

 『AIと報道(上)ヒトにしかできない仕事』に続いて、(下)ではジャーナリズム活動をめぐる様々なフェイズでAIを活用している人たちの取り組みの一端をみていこう。

 ビジョンは「ビジネスとジャーナリズムの両立」、それを実現するためのミッションが「ニューステクノロジーの追究」と「報道の機械化」――。そんな考えを前面に打ち出しているのが、30歳の米重克洋社長が率いる報道ベンチャー、JX通信社だ。

 JX通信社が手がける具体的なサービスは四つ。まず、消費者が発信する様々な情報の中からAIを使って災害、事件、事故など「ニュース性のあるもの」を抽出し、確度の高いものについて、発生地域の情報などを加える形で多くの報道機関や公共機関に配信する「FASTALERT」(ファストアラート)。投稿された情報の中から虚偽情報を排除する作業はAIを中心に行うのが特徴だ。

 また、消費者が「スマートフォンで最も速くニュースを知る手段」となることを目指した速報特化型アプリ『NewsDigest』。速報対象となる情報を見つけてユーザーに伝えるまでの全てのプロセスがほぼ完全に自動化されている点が重要なポイントだという。

 また機械を使った自動電話世論調査に関しては、2018年の沖縄県知事選情勢調査で沖縄テレビや琉球新報とともに実施するなど実践的な展開を進めているほか、AIでニュースを自動編集・配信するための基盤ニュースエンジン「XWire」(クロスワイヤ)の提供も行っている。

 「『ビジネスとジャーナリズムの両立』というミッションを通じてコストカットに貢献できれば、その分、報道産業に携わる全ての人が『人間でしかできない仕事』に特化し、付加価値の創出により注力できる。損益分岐点は下がり、収益機会が増え、再び持続可能性や成長性を認められる産業に生まれ変わります」

 メディア企業の未来をそう語る米重が目指すJX通信社の将来の姿は「仮想通信社」だ。「ニューステクノロジー」だけがあり、取材する記者や建物としての支局などはないが、「既存の報道機関の業務に大きく貢献するとともに一般消費者のライフラインとしてのニュース配信を支える」、そんな新しいタイプの通信社を目指したいという。

中学生のころの関心事は「航空業界」

 米重は中学校の同級生に「航空オタク」がいたことがきっかけで航空業界に興味を持つようになった。たまたま当時読んだ記事で、日本には格安航空会社は誕生しないと大手航空会社社長が発言していたことを知り、既存の規制に保護された状態に安住して消費者が何を求めているかのニーズに向き合っていない航空会社の姿勢にカチンと来たという。

 「その時、将来は航空会社をつくりたいなと思いまして。ただいきなり巨額の費用を要するようなことがすぐにできるわけもないので、そこに向かうための一つのステップという意味で、何か起業してビジネスをやらなければと」。中学2年生の時にそう考えたのだという。さて自分が関心を持って取り組める課題は何かと改めて考えた時、もともと「報道オタク」で新聞やテレビのニュースが好きだったことを思い出した。

 他方、韓国のインターネット新聞「オーマイニュース」に着想を得た形で2003年、市民記者によるインターネット新聞「JANJAN」が日本で創刊され、注目を集めていた。「生活や仕事の現場から、既存マスコミが取り上げないニュースを送る」とうたい、日本でのネットメディアのさきがけとなったが、その後閉鎖や休刊に追い込まれるという動きがあった。

 「当時はそういうやり方が成立するなら面白いなと思って肯定的に見ていました。既存のメディアに対抗する『オルタナティブジャーナリズム』という言い方もしていたので期待もしていたんですが、ある意味でビジネスモデルの失敗ではないかと……。私自身はそういうものが好きな消費者という立場にいたので、すごくもったいないなと感じましたし、『ネットのサイトはもうからない』という課題は解決しなければいけない、そしてそこをビジネスにしていけば航空会社設立の夢にもつながるのではと考えました」

「テクノロジーを使って報道機関をいかに再構築するか」

JX通信社の社内と社長の米重克洋さん=撮影・吉永考宏拡大JX通信社の社内と社長の米重克洋さん=撮影・吉永考宏

 その後、米重は2008年、ウェブやフリーペーパーを組み合わせてメディアを展開する会社を起業。3年後にはエンジニアの採用を増やす中で、自然言語処理という技術を使って自分好みのニュースを収集できるニュースアプリを消費者に提供するというサービスに取り組み始めたことが今日の活動につながっていった。

 JX通信社の従業員は約30人。うち6割ぐらいがエンジニアで元記者はいないという構成だ。個別のサービスごとに競合他社は無数にいるというJX通信社が「他社よりここが優れている」とアピールする点はどこか。

 「『テクノロジーを使って報道機関をいかに再構築するか』ということに関しては世界的に見ても一番集中しているテクノロジー集団だと思っています。私自身ジャーナリストの経験がまったくなく、ニュース好き、新聞好きの消費者という立場でずっと見てきて、『ここは疑問だ』という点をテクノロジーで解決していくということをやってきた。そういう目線があるということが我々の強みだと考えています」と米重はいう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

松本一弥の記事

もっと見る