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AIと報道(下)ビジネスとジャーナリズムの両立

アルゴリズムを使って社会の分断を何とか解消しようという試みも

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

「スマホの画面でいかに存在感を広げるか」に投資せよ

 こうした経験を積み重ねながら実感した既存メディアが取り組むべき課題について、こう整理する。

 「いま消費者が一番時間を使っているのはスマートフォン画面の上です。なので『そこでいかに存在感を広げるか』という一点だけに集中投資するということが大事なのではないでしょうか。私がいつも思っているのは、組織ジャーナリズムの中核にいる存在である新聞社の場合、流通構造と心中する必要はないということです。新聞社や組織ジャーナリズムの価値は、ある意味で社会の安定的なライフラインで重要な言論機関として読者に情報を届けるということであり、そこがある意味でコアなので、伝達手段が紙であるかネットであるか、届ける先がスマホなのかそれ以外のものかという点にこだわる必要はないと考えます」

「経済合理性」に集中して課題を解いていく

 米重はいう。

 「『あれも問題』『これも問題』というふうにやっていくと手のつけようがなくなるので、『どの問題を解かなければいけないか』という課題の特定だけを明確にしておけばいい」。それは何かといえば、基本的にジャーナリズム活動を続けていくには「経済合理性を担保する必要がどうしてもある」ということだと指摘する。

 「現在は、利用者に向けてサービス内容をパーソナライズすればするほどその人の滞在時間が増え、それによって広告収益なり課金収益が生まれるーーというメディアのビジネスモデルになっていて、それはプラットフォーム企業も同じです。そこで『そうではないやり方で経済合理性が保てるビジネスモデル』を新たに作っていく必要がある。その際、ビジネスとして存続する方法が、社会を分断するような方向ではなく、それとは別の、分断を回避する方向で存続できるようにしていくという問いを解かないといけない。そういう時に、『教育が大事』とか『読者や視聴者の意識を上げていこう』みたいなことをいう人もけっこういるのですが、そこから始めるとたぶん、この話は私が生きている間には解決できないと思います」

AIによる自動化やテクノロジーの役割は今後さらに拡大する

 AIとジャーナリズムの関係は今後どこまで密接になっていくか。米重の考えはこうだ。

 「ジャーナリズムのワークフローの中で、AIによる自動化やテクノロジーの役割というのは確実にものすごく大きくなっていくと思います。機械化できない余地はほぼないといっていいでしょう。ただ重要なのは、AIにはできなくて人間にできることは何かというと、課題設定、いわゆるアジェンダ設定だと思います」

 「何か取材をしようというときに、記者のほうには問題意識や仮説があって、その疑問に対する答えを知るためにももっと情報を集めようとか、この人に情報を聞こうという流れになると思うのですが、そういうアジェンダ設定自体は機械にはできない。そこは言論機関としての『命』というか、それがなければ成立しないぐらいのことだと思います。問題設定の感覚を磨くというか、そういうところが本質的に人間が集中すべき部分。機械でできることはもう機械に任せて、人間は人間でなければできないことに集中するというふうに産業モデルを組み替えざるをえなくなるところまで、AIやテクノロジーはいまのジャーナリズムのワークフローの中にどんどん入ってくると思います」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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