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AIと報道(下)ビジネスとジャーナリズムの両立

アルゴリズムを使って社会の分断を何とか解消しようという試みも

松本一弥 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

メディアの裏側でテクノロジーを使って支えるーースペクティ

スペクティ社長の村上建治郎さん=撮影・吉永考宏拡大スペクティ社長の村上建治郎さん=撮影・吉永考宏

 「私たちは自動化した便利な『ツール』や『システム』を提供しているのではなく、報道現場とともに目的(ゴール)を目指すため、報道を支援するための『サービス』を提供していると思っています」

 AIを使ってSNSの動画や画像を自動収集する中からニュースの端緒となるものを報道機関に提供する情報解析会社「スペクティ」のモットーだ。

 そう語る社長の村上建治郎は「報道現場がいまどんな問題に直面していて、それをどうやって解決していこうとしているのか。ゴールは何かということを常にメディアと一緒に考えよう」と社員に話しかけているという。

 創業は2011年。東日本大震災に直面し、外資系のIT企業の社員だった村上はボランティアとして何度も東北地方に出かけたが、実際に見た現場の様子は報道されている内容とはだいぶ乖離(かいり)があると感じた。また報道を通して入ってくる情報よりも、現地にいる人たちがSNSを通じて投稿する情報のほうがはるかにリアルで正確だということも痛感したという。

 その後、ネット上の雑多な情報をきれいに整理した個人向けのアプリのようなものを作ってみたことがもともとのきっかけだった。

 村上はもともとコンピューターやインターネットが好きというタイプの学生で、卒業後は外資系のIT企業に就職していたが、2011年に個人事業として創業。13年にはスマホアプリ版「Spectee」(以下、スペクティ)の開発を開始、16年には報道機関向けの「スペクティ」をリリースした。

 同社のホームページに掲げられた「スローガン」には、「報道が1分早くなれば、100万人の命が助かる」というタイトルのもと、3.11に絡んでこう書かれている。

 「もしも現場の声を早く的確に伝えることができたらどれだけの人命を救えることが出来ただろうか。現場の声をいち早く正確に伝えるサービスを創ろう。 それは次の震災に必ず役に立つ、そして世界中に必ずそれを必要とする人がいる」

AI記者の自動ライティング、AIアナウンサーのナレーション

 AIを使ってSNS上の投稿を解析する速報サービス以外では、同社は「AI記者による自動ライティング」をめぐる研究開発も進めている。

 事故災害などのようにある程度の定型文が装丁されるケースについて、SNS上の情報をもとに自動的に記事をつくり、あとから人間が具体的な事実を追記していったり、公式情報をもとに記事を書き起こしていったりするというスタイルだ。5W1Hの定型的なニュース文法に適した記事を生成できる特許(「AI記者」)を2017年に申請、それをベースに現在も研究開発を続けているという。

 そうして生成した記事については、「AIアナウンサー」が人に近い音声で読み上げるというサービスも手がけている。キャッチフレーズは「もっとも人に近い AIアナウンサー」。名前は「荒木ゆい」。テレビやラジオの番組でナレーションもする。キャラクターは「栃木県出身の27歳。東京の私立大学を卒業後、東京キー局のアナウンサーとして就職、その後フリーとして独立した」という「設定」だ。

すべてをテクノロジーでやるのではなく人間のチェックも

スペクティの社内と社長の村上建治郎さん=撮影・吉永考宏拡大スペクティの社内と社長の村上建治郎さん=撮影・吉永考宏

 同社の特徴は「AIとヒトのハイブリッド」。記者経験のある人を採用するとともに、テクノロジーにすべてを任せるのではなく、並行して人によるファクトチェックも必ず行っているという点だ。

 その理由を村上は「我々は報道機関に対して一定のクオリティーをきちんと担保しなければなりません。それが『報道機関に対し我々は便利なツールを提供しているのではなく、報道を支える裏側としてのサービスを提供している』ということの意味です」と説明する。

 具体的には、日々の業務の中では「情報管制官」と呼ばれるファクトチェック担当者が、その情報は事実に基づいているか、解析した発生時刻や発生場所は間違っていないかなどについて様々な情報を参考にしながらチェック作業を日々行っているほか、ニセ情報を見つけるたびにチェックの精度を高める議論を社内で交わし、必要に応じてシステム自体にフィードバックして反映させている。ファクトチェックについての勉強会も月に1回程度の頻度で開いているという。

 「一日にそれこそ何百本っていうSNSの情報が流れてくるので、一日を振り返って問題がなかったか毎日反省し、日々改善をしています」と村上は話す。

代表メッセージは「新時代のCNN」

 創業当初、代表メッセージとして村上は「新しい時代のCNN」というキャッチフレーズをホームページに掲げた。そこに込めた思いについてこう説明する。

 「1980年、米国のテッド・ターナーが立ち上げたCNNは、世界で初めて速報ニュースを24時間ライブ配信で届けるなど、それまでのニュースの世界の常識を大きく変える画期的なメディアでした。できた当初は既存のメディアからいろいろたたかれもしましたが、でも振り返ってみるとやっぱり凄く新しいメディアだった。あれから40年近く経ちましたが、この間、ニュースの世界で何が変わったかというと、CNNが立ち上がったころのような革新というのはまだ起きていないのではないか。そこで我々は、ニュースの世界に技術的な革新を起こし、世界中から集めた最も信頼性の高い情報をどこよりも速く伝えていきたい。またその意味で『新しい時代のCNNを作ろう、CNN以来のニュースの革新を起こそう』ということを合言葉に日々努力していきたいと考えています」

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筆者

松本一弥

松本一弥(まつもと・かずや) 朝日新聞夕刊企画編集長、Journalist

1959年生まれ。早稲田大学法学部卒。朝日新聞入社後は東京社会部で事件や調査報道を担当した後、オピニオン編集グループ次長、月刊「Journalism」編集長、WEBRONZA(現「論座」)編集長などを経て現職。満州事変から敗戦を経て占領期までのメディアの戦争責任を、朝日新聞を中心に徹底検証した年間プロジェクト「新聞と戦争」では総括デスクを務め、取材班の同僚とともに石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞した。早稲田大学政治経済学部や慶応大学法学部では非常勤講師などとしてジャーナリズム論や取材学を講義した。著書に『55人が語るイラク戦争ー9.11後の世界を生きる』(岩波書店)、共著に『新聞と戦争』(上・下、朝日文庫)。

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